ページビューの合計

2015年9月27日日曜日

VWの蹉跌

VWは完全なるクロだった。Defeat Device(排ガス制御の無効化装置)の使用を認めたのは、事が公になる約一ヶ月前の8月21日。だが、それは1年以上にわたって否定を続けた果てのgive up。

そもそもはEC(欧州委員会)が欧州各社の主張するディーゼルエンジンの規制水準に懐疑の眼差しを向けたのが2013年。普及すれば改善するはずが、むしろ悪化の一途を辿る欧州大都市のNOx、PMによる大気汚染を踏まえてのものだったようだ。

EC規制当局が米国での実路走行データを求めているという要請を受けたCARB(カリフォルニア州大気資源局)が調査に乗り出し、依頼を受け実務に当たったウェストバージニア大の研究者が、車載コンピュータの診断データの中に異常な記録が残っているのを発見し、御法度のDefeat Device使用の事実を掴んだ。VWは頑なに否定を続けたが、調査にあたった研究員の執念が優った。

VWが捲土重来の北米市場でシェア拡大の本命として選んだのがクリーンディーゼルTDI。その力の入れようは、2008年のグリーンカーオブザイヤー(G-COTY)をジェッタ(ゴルフのセダン版)TDIで獲得。

LAオートショーのプレスデイ期間中に表彰されるのが恒例で、「VW、力入ってるな!」ディーゼル乗用車不毛の地と言われたカリフォルニア・ロサンゼルスでの受賞に新しい時代の息吹を感じた。

翌2009年は3代目プリウスがノミネート。GMシボレーのボルトは翌年だし、本命は固いと思っていたら、何と前年同様VWグループのAUDI A3 TDIが連破。さすがにこれはないだろう? 地元の同胞メディア関係者と眼を見合わせた。

僕は2005年頃から始まった欧州のディーゼルブームにずっと注目し、現地で国内外のディーゼルモデルを借りてブームの本質を掴んでいた。コモンレールディーゼルが本格普及し始めた2003年以降の現象で、2005年には欧州小型車市場の50%を占めるに至った。

その理由の第一は、エコでも経済性でもなく、スポーティであること。走らせて楽しいことがまずあって、しかも経済的で高速巡行時は回転数の低さから静かで快適。目に見えないエコは2の次と考えても良かった。

トヨタが環境に優しいエコユニットとして開発したDPNR(Diesel PM-NOX Reduction system)は、環境性能はユーロ6クリアする優れモノでしたが、燃料を噴いて排ガス浄化を図るため燃費が厳しく、件のVWや尿素SCRを選んだBMW、メルセデスベンツ勢の前に撤退の憂き目を見ています。

アベンシスを現地で試しましたが、アコードの2.2Lやレガ
シィの2Lボクサーとの差にがっかりしたことを覚えてます。でも、CO2以外の環境性能だけで問えば屈指の存在です。今にして思えば不運だったのかもしれません。

トヨタ・ホンダの日本勢に大差をつけられていた北米市場で失地挽回を目指すあまり、CARBを欺いてまでもユーザーメリットのある燃費を優先した。アメリカで成功すれば、米国の背中を見てトレンドが形作られる中国でも期待ができる。ドイツ本国の3倍以上を売り上げる中国市場戦略の面からもTDIは期待の星だったに違いありません。

実は欧州と中国がVWにとっての主力市場で、グループで1000万台とはいっても、日本メーカーほどグローバルな展開を実現していない。エコがトレンドのシェール革命以前はハイブリッドに対抗するにはTDI以外に手持ちがない。その焦りが北米での半ば強引に無理筋を通そうとした理由でしょう。

少し引いて批評の眼を持っていれば、まず疑うところから入るはず。メーカーの広報戦略の片棒を担いで報道する姿勢を忘れてしまうと、最後は世のクルマ好きをがっかりさせることになる。いろいろ語っている同業には、まずここからやり直さないと距離が開くばかりだと言いたいです。

まぐまぐ!メルマガ『クルマの心』でさらに深く掘り下げるつもりなので、是非ご講読を検討して下さい。http://www.mag2.com/m/0001538851.html

2015年9月24日木曜日

VWの一件、今僕が自分の言葉で語れること。

後出しジャンケンのようで気が引けるのだが、思い出されるのは2008、2009年のLA国際自動車ショー開催時に行われるグリーンカーオブイヤー(G-COTY)である。

前年の2007は、時のアーノルド・シュワルツェネッガー カリフォルニア州知事列席の下表彰式が行われ、いかにものシボレー・タホ ハイブリッドが栄冠に輝いた。

その翌年は、VWが捲土重来を賭ける勢いでTDIを猛プッシュし、ゴルフセダンとも言うべきジェッタTDIがG-COTY。当時ディーゼル乗用車不毛の地と言われた米国の自動車州で、V Wの本気を感じ取ったことを覚えている。

2008年と言えば、前年の2月にEU委員会が120g/kmのCO2排出規制法案を突如提出し、欧州の自動車産業の空気を一変させた翌年。それまで「我々にはディーゼルがある」とハイブリッドを初めとする電動化技術に消極的だったドイツメーカーがことの重大さを悟り、IAAフランクフルトショー2007に雨後の筍の如くハイブリッドやEVの技術展示を行った。

現在でもVWの米国におけるシェアは6%(約60万台)に留まり、桁が一つ違うトヨタ/ホンダとは大差の開きがあるが、当時は30年以上前のラビット(ゴルフ)による進出の失敗の影響が残り゛さらにシェアは小さかった。

そこでテコ入れ策としてTDIでエコイメージを訴求して、グリーンカーに注目が集まるカリフォルニア州でイメージ挽回を図った。ヴィンターコルン体制2年目、振り返ると驚異的と評価される躍進が始まった頃である。

2009年はトヨタの秘蔵っ子であり、アメリカで成功を収めていた元祖ハイブリッドプリウスの3代目デビューの年。G-COTYの大本命と目されていたが、蓋を開けると2年連続となるVWグループのAUDI A3 TDIが栄誉を手に入れた。

ディーゼルに関心が薄いはずのカリフォルニアで、プリウスを退けての連続受賞にはさすがに違和感を覚えたが、COTYに企業努力はつきもの。洋の東西を問わず、人が決めるプライズとはそういうものだろう。

僕はCOTYを否定する者ではなく、それらを含めて人間が選ぶ祭事に似たイベントであり、そこにこそヒューマンな面白みがあると考えている。

これが厳格さを求められる品評会や技術コンテストとなれば話は別で、採点評価には確たる理由が必要だ。それはZEV法が定める排ガス規制で求められる技術的ファクトに対する要求と何ら変わるところはない。

COTY(年グルマ選び)のようなプライズに極端な厳格さを求めることには違和感を覚える一方で、法が定める規制については情実の入り込む余地は認められない。

明らかに不正となるDfeat deviceを使用していた時点で、VWは完全にアウトであり、それは一部の担当者レベルの話ではなく技術系のマネージメントが不承知だったとは考えにくい。

今回がそうだったように、しかるべき方法で調べれば露顕するファクトの話。1100万台が該当するという事実からも組織的に行われた不正とみるのが妥当だろう。

それが明らかになったからこその事件であり、違反の事実に擁護の余地はない。功を焦ったような急成長には必ず綻びが生じるものだ。

1000万台という世界生産規模は鬼門。かつてGMはその数字を得て世界一を印象づけた後に破綻に追い込まれたし、トヨタもサブプライムローン/リーマンショックによる世界恐慌状況という外部要因に始まったとはいえ急成長の結果として創業以来の危機を迎えた。

同様な視点から、ブランドを買い漁るようにしながら急成長を遂げるVWもいずれ躓くとみていたが、思わぬタイミングと理由でその時が訪れた。

トヨタが抱えるリスクは今も変わらないと思うが、VWは技術誤用という内部要因による躓きだけにブランド毀損によるダメージは計り知れない。

問題露顕のタイミングがタイミングだけに様々な憶測が溢れそうだが、歴史的転換点になることは間違いなさそうだ。

2015年9月23日水曜日

物証:MAZDAはRE(ロータリーエンジン)スポーツを開発している。

IAAフランクフルトショー2015プレスデイの翌日、ニュルプルクリンク北コース(Nurburgling Nordschlehfe)に出掛けた。取材期間中借用していたCIVICtypeRを走らせようと。

今年はこれまでになく雨天続きで、何年か振りに走るニュルも期待薄かな……諦め半分で出掛けたら、雨が上がり「ラッキー!」。平日の北コースはIP(インダストリアルプール)といって内外の自動車メーカー各社が共同で占有することが多い。この日も一般走行は18時からの2時間。1周27ユーロて有料走行が可能となったのだが、IPが終盤に差しかかったところで非情の雨。


まあ、せっかくだからと走ったけれど、コースがうろ覚えな上に走行車両はワンサカの大盛況。typeRのリポートはまぐまぐ!のメルマガ『クルマの心』http://www.mag2.com/m/0001538851.htmlに書いたのでよかったら講読して下さい。

IPが終るまで名物と言われるギャラリーコーナーで見物。メルセデス、BMW、AUDI、VW、MINI、ポルシェに日本勢のLEXUS、MAZDA……。覆面のプロトタイプから登場間もないニューモデルまで、見ていて飽きないクルマが次から次へとやって来る。

そんな中で、「おっ!」となったのが、2台で編隊を組む赤いRX-8。リアウィンドーに『L(ラーナー)』の文字が見える研修訓練車両ということだが、何で今時RX-8?他でもない、REスポーツ開発のための人材育成と考えるのが自然だろう。

翌日フランクフルト郊外オバーウーゼルのMREで行われたワークショップで施設見学をする中何故か真紅のFD3SとグレーのRX-8が鎮座していて『?』となった。

構内は撮影禁止ということで画像は残っていないが、傍らにいる大男のヨアキム・クンツにこっそり聞くと「スポーツカーにとって音(サウンド)は大事でしょ?そのサンプリングをやってるんだ」彼はMREで製品評価を担当する試乗&調査グループのシニアマネージャー。言外に『REスポーツの開発?やってるよ』と表情で応えてくれた。

2017年はコスモスポーツから数えて50年のREの節目。SKYACTIV TECHNOLOGYの成功を背景にマツダのアイデンティティの象徴的存在ロータリーエンジンを華々しく復活させるというストーリーは、プレミアムを目指すブランド構築には欠かせない通過儀礼ともいえるだろう。



IAAフランクフルトショーから帰って来たら、何やらドイツがキナ臭くなってきた



AAフランクフルトショープレスデイの翌日(18日)の報道というタイミングに配慮を感じる。14日のVWグループナイトでは、BMWからヘッドハンティングされたヘルベルト・ディースが新たにVWブランドCEOとして初のプレゼンテーションを行った。
僕はこの手の人事に疎いのだが、翌15日IAA2015のオープニングを飾る朝一のプレスカンファレンスにBMWの新任ハラルド・クルーガー会長が登壇し、スピーチの途中で倒れてプレカンが中止(夕刻再開)という前代未聞の事態が生じた。

このクルーガー会長との権力闘争に破れ、弾き出される形でVWにポジションを得たのがディースCEOとのことらしいが、クルーガー新会長同様にこれからという時に難しい局面に立ち至ったことになる。

マルティン・ヴィンターコルンVW社長の進退も取り沙汰される事態に、大揺れは必至。BMWも指導体制に不透明感が漂い、ディーター・ツェッツェCEO率いるダイムラーAGのメルセデスベンツ/スマートにも一時の勢いが感じられなくなった。


報道が前日/前々日のIAAプレスデイの真っ最中だったら大騒ぎになったことは間違いない。

VW・BMW・MBのジャーマンスリーは、ECE R101規定というローカルルールともいうべきPHEV優遇の法制(25km+EV走行距離)÷25km=削減係数 を敷き、ダウンサイジングターボなどによって予めCO2排出量を下げた上でその係数で割った数値を公式な排出量とするEUの政策に乗って、政府業界挙げてのプラグインハイブリッド推進に乗り出した。

背景にハイブリッドやFCV(燃料電池車)技術で先行するトヨタやホンダの日本勢の存在があり、利益率の高い大型高級車が中心のドイツメーカーのサバイバルも併せて費用対効果の大きいPHEVやEVへの傾倒が国益に適うという判断があったとみていい。

レギュレーションを主導して優位を確保するのはF1などにも見られる傾向だが、裏を返せばそれだけ真剣な死活問題だという認識を持っていることに他ならない。

現実問題として世界最大の市場に成長した中国でのドイツメーカーのプレゼンスは20%を上回る中国メーカーに次ぐシェアを押さえ、メリケル首相も足繁く中国詣でを繰り返している。日本の自動車メディア/ジャーナリストは国内販売シェアで10%にも満たないドイツ車をほとんど盲目的に礼賛し、世界市場でトップシェアを握る日本メーカーを下に置く自虐的な立場を貫いている。

伝統的に巧みなドイツ一流のプロパガンダに染まって、批評の精神を元に批判的に物事を見る態度を忘れ、アウトバーンを初めとする世界的にはむしろガラパゴスといえる環境の成果物としての特異な高性能車を理想と崇める傾向にある。もちろん日本メーカーも批評の対象であり、内外に格差を設けてはならないが、明治以来の舶来崇拝にいつまでも留まる愚は双方のためにならないだろう。

肝腎な時に日頃の懇意に遠慮して発言が鈍るようではメディア/ジャーナリズムとしての存在を疑われる。報道のタイミングから推察して、VWの内部リークの可能性も否定できないだろうが、いろんな意味で考えるべき時が訪れたのは間違いないと思う。

2015年7月13日月曜日

GOODWOOD FESTIVAL OF SPEED 2015 公式プログラム/エントリーリスト+MAZDA OFFICIAL BOOKLETを一名の読者に進呈します


   GOODWOOD FoS 2015から帰って早2週間。そこに居るだけで幸福な気分になれる自動車好き、モーターレーシング好きの楽天地。2001年の初観戦以来、15年で8回目の南イングランドの明るい空の下は、MAZDAがCENTRAL FEATUREを掲げるホストスポンサーとなったことでいつもとは違う空気に満たされた。

  予想よりずっとカッコ良くて、贔屓目なしに過去18作のディスプレイの中でも秀逸のひとつに上げられる。魂動デザインを掲げてMAZDAdesignをリードする前田育男デザイン本部長の思いを、モニュメント専属デザイナーのGERRY JUDAHが神社の軒などを支える「組物」という日本の伝統的建築様式をモチーフにして巧みに表現。天辺に載るルマン24時間winning machine 787BとそのオマージュLM55vision GRAN TURISMOの存在感を際立たせた。
  思えば、ここでMX-5という世紀のアイドルスポーツカーのお披露目ができたら楽しいのではないか……夢想はとんとん拍子で現実となり、規模は望み通りとはならなかったが、足跡を残すには十分な4日間になったと思う。祭りは儚さを含めて祭となす。

  すでに過去になったが、例年通り多くのエントラントがやって来て、有名無名を含めて1.16mileのヒルクライムコースを楽しんだ。

  あれこれ忙しく、取材に身が入らなかったのは残念だが、ぽわんとした感じでただそこにいただけで満足している自分がいる。


 見慣れたいつものコースをマシンが行き交うのを見るとはなしに感じている。貧乏性があちこち動き回ろうと急かせるが、いいのだこれで。いつもでも若くはない、空気感を味わうだけで十分だよ。  
                                                                                                                              

   これだけREマシンが勢ぞろいすると、何やら次のRX- 〇に期待したくなる。セントラルフィーチャーの787BとLM55は何かを予言しているのかもしれない。
   世界で一番F1に近づける場所。GOODWOOD FoSは訪れてみないとその価値が分からない。マシンなどのモノだけではなくて、祭りで踊る人、見る人が作り上げている。目指すべき追いかけるべきゴールはこっちだろう。
  ちょっとサボり過ぎな本ブログ。罪滅ぼしにGOODWOOD FESTIVAL OF SPEED 2015で手に入れた公式プログラムとエントリーリストにMAZDA OFFICIAL BOOKLETを添えて一名の方にプレゼントしようと思う。FB、twitter、carview spl blogなどにも貼るのでそこからの応募も可。抽選で遅らせていただきます。発表は発送をもって代えさせて頂きます。

2015年2月21日土曜日

"生原稿" driver 2015年4月号 別冊付録 NDロードスター試乗記

  何かと話題のマツダ新型ロードスター(ND型)。すでに巷間多くの試乗記が出回っていて賑やかになってきました。僕もdriver誌に寄稿していますが、別冊付録で展開された今回の試乗記。思いの丈が大きくてつい力が入ってしまい、遥かいにしえの余談から無茶振りをした結果、見事に削除。


  でも、全体の流れを作る前振りなので世間の目に触れないのは惜しい。ということで、こちらに原稿を貼ることにしました。driver本誌別冊付録と読み比べてみるのも一興かと。小見出しは付けないので一気に読み切ってください。

●ここからが本文です……!

 ずっとFRにこだわり続けてきた。すべては直観が始まりだ。40年前の富士スピードウェイ。真っ黒なタイヤ痕をアスファルトに擦りつけながらヘヤピンを駆け抜けるF1を見た。太い右リアタイヤが外に逃げるのを逆ハンドルでいなし、美しいラインを描き踊るように300Rに消えて行った。

  高まるエキゾーストノートが片時もアクセルを緩めない強い意志を伝え、画像とサウンドが一体になって目に焼きついた。ドライバーはスライドウェイ(ドリフト野郎)ロニーと親しまれたスウェーデンのロニー・ピーターソン、マシンはJPSロータス72DFV。1974年11月24日、富士グランチャンピオンシリーズ最終戦の合間に開催されたF1デモランの一コマである。

 翌75年梅雨時の筑波サーキット。名手高橋国光駆るB110サニーのナビシート。雨に濡れる第二ヘヤピンにアプローチしたかと思うやいなや、重力から解き放たれたように景色が流れた。

  国さんは、滑るマシンを予期したようにステアリングをクルクル回してアクセルをあおり続け、マシンが直進状態を向く刹那両手を宙に離し、こちらを向いてにっこり。この時僕は23歳、日産レーシングスクール受講から40年を経た今もなお身体に残る衝撃の体験だ。

 ドリフトがすべてという『結論』から僕の自動車評論は始まっている。それは1970年に免許年齢に達し即座に手に入れた幸運にもよるのだが、当時FRはあたりまえであり、何の疑いもなくそこから始めることができた。最初にどんなクルマを手にしたか。あなたのスタイルに及ぼす影響は計り知れない。

  流行に左右されるファッションとも個性を意味しないモードとも違う、自分流へのこだわりとしてのスタイルである。 長い航海の途中に母港に立ち寄った気分。抽象的だが現在ただいまの偽らざる心境だ。40年を超える年月は遥か遠くに霞むが、過ぎてなお熱く語れる己が頼もしい。

 FRについては、その魅力を具体的な姿で表現し四半世紀にわたり孤塁を守り続けてきたMX-5マツダロードスターについては、誰を差し置いてもまず俺に聞け。不遜は承知の上で吼えたいと思う。評価は発売時でも間に合う。プロトタイプの今はありのままを語る時なのである。

長いよな。ここまでの道のりは本当に長かった。手応えは2014年4月16日のニューヨークショー(NYIAS)プレスデイで初公開された次世代MX-5(NDロードスター)用スカイアクティブシャシー。これを見た瞬間スイッチが入った。 

  そこからの経緯は逐一報告したと思うが、さあ注目の初乗りである。 ドライバーズシートには何度か着座し、馴染んでいたつもりだった。いつものようにゆっくりと。スターターボタンで起動し、アイドリングのままクラッチをつなぐ。

  ストールしない程度にスロットルを開けて、感触を味わってみる。 排気量は1.5l 。現時点ではまだボア×ストロークなどは明らかにされておらず、スカイアクティブの直噴ガソリンエンジンであるというだけ。日本仕様は当面このエンジン一本となるようだ。

 しばしエンジン回転を上げずクルマとの折り合いを探る。ギクシャクする素振りもなく、静かでバランスの良さを感じる。ストレスが掛かる微低速でもフリクションを意識することもなく洗練された印象こには軽量ゆえの薄さはなく、オープンカーらしからぬ車体の密度というか貝殻のような凝縮感に包まれている。

ステアリングホイールは外径、グリップ径ともに納得が行くサイズだが、革巻きのタッチはやや硬質で乾いている。微速で大きく左右にウェービングを試みるとダイレクトというよりスムーズであり、ピニオン直動式の電動パワステは軽さの中に精度を見出す発想が読み取れる。


 クイックとかシャープという分かりやすいインパクトに頼らないで、動かし易さの鍵を握るきちんとついてくる『間(ま)』のチューニングに心血を注ぐ。専門的には人間が本質的に備える位相遅れを考慮しながら最適解を追究する。その結果がこれだということなのだろう。

 その評価だが、ちょっとクール過ぎる。カッコイイという意味ではなくて、冷たいというニュアンスだ。革の張りを緩めるか厚みを増すかウェットタッチにするかでミクロの溜めとなる潤いが欲しい。耐久性との闘いになるが、ここでスタイルを確立したら間違いなく自動車史に残す逸品になると思う。

 6速MT。スカイアクティブの核となるドライブトレインだが、動かしてみるとシフターの存在感が重い。慣性モーメントを意識したシフトノブの質量とサイズ形状は納得だが、3分割ステッチの粗い感触が過剰演出気味でドライビングの統一感を損ねている。ステアリングホイールのタッチの評価もこれとの相対関係の疑いがあるので再考を要する。ここは見た目も大事だが、ドライビングをデザインするスタートであり、またゴールでもあるのだ。

しばらくして「ナロー(車幅が狭い感じ)?」これまで経験したことのないインターフェイスの雰囲気に気がついた。着座位置が中央寄りで、ドア側の肩口まわりに余裕を残す。 シートを中心にステアリングとABCペダルがきちんと正対しているから、違和感なく身体が収まるし、コンパクトサイズらしからぬ伸びやかさが先に立つ。

  プロポーションを優先させながら乗員の居住スペースの最大化を図ったパッケージングは思いのほかの解放感を味わせてくれるはずだ。


 ところが走り出すと何か違うのだ。とてもNCより広い1730㎜の全幅とは思えないし、NAと比べても狭小に感じられる。目に入るフェンダーの稜線とボンネットの鼻先の長さも関係する明らかに錯覚だが、このトリックアートのセンスを取り入れたリアルとフィール、現実と実感を巧みに交叉させる技法。これこそが新生NDロードスターに貫かれたコンセプトの核心という気がする。

そうなんだ。NDロードスターが姿を現した9月4日以来、僕は一度もこれを小さいクルマだと感じたことがない。正式に発表になったディメンションは全長3915㎜、全幅1730㎜、全高1235㎜、ホイールベース2315㎜。唯一全幅は歴代最大だが、前後オーバーハングを削ぎ落した全長は最小。ホイールベースはNC比マイナス15㎜だが、居住性を損なうことなく約100㎏の軽量化を実現した。

  外板はドア/リアフェンダーを除いてアルミ化。前後オーバーハングマスの最小化によって総重量とヨー慣性モーメントの低減を一挙に片づけている。

 エンジニアリングは軽量化が最優先。ディメンションの最小化はその手段であって目的ではないという。軽さは追究するが、それ以上にこだわったのはかっこ良さだ。デザインテーマは身長160㎝のスーパーモデルだった。常識を覆すアプローチに魂動デザインが挑み、『御神体』で抽象化されたかっこ良さの実現にハードウェア開発陣が腕を奮った。

 ここで思い出されるのがNYIASで目に留まったベルハウジング。ベアシャシーで異彩を放ったツルンとした表面は、フロアトンネルを圧縮して最適ドライビングポジションを得るための形状だと解釈できる。右ハンドルではフロアにキャタライザーの出っ張りが気になるが、ドライビングに支障はないだろう。

少し走りのペースを上げてみよう。エンジンは、スロットル開度を深めないパーシャル領域では淡々としている。最高出力96kw(131ps)/7000rpm、150Nm(15.3kgf.m)/4800rpm。トップエンドまで回した際の乾いた快音と澱みのない吹け上りは合格だ。

  欲を言えば、あと1500rpmほど余計に回して有無を言わせぬリッター100馬力を実現する一方、バルブコントロールや燃焼効率の精査その他で燃費にもチャレンジ。小排気量の弱みを強みに変えるテクノロマンで酔わせてほしい。

  ライトウエイトスポーツは軽くて小さくて2人が楽しめればいい自由度の高いカテゴリー。これから始まる長いNDの旅路のどこかで試してほしい課題だ。

 レブリミットの7500rpmまできっちり回すように。言われなくてもそうするつもりだったが、言うだけのことはある。フルスロットル下のパフォーマンスは1.5l を忘れる迫力があり、官能評価で×が付けられることはないと感じた。

ハンドリングは率直に言って評価しかねた。今回のテストフィールドは伊豆のサイクルスポーツセンターロードコース。自転車用の滑らかで高μの路面という特殊な条件で、基本的にタイヤマークが付く走りは御法度ということになっている。

マツダの開発陣はどう言うか知らないが、FRの妙味はドリフトにある。四輪車に必然の前後左右の荷重変化を活用し、グリップ限界を超えた領域で操舵と駆動を相互に調整しながらクルマをコントロール下に置く。45度あたりをピークとするドリフトアングルで速度や旋回方向を選びつつ、想定する走行ライン上を自在にトレースさせて行く。

  浮遊感覚をともなうドライブ体験は、スキルを身につけた者すべてがはまる。未知の人間にとっては恐怖だが、会得した者はそこを避ければ安全という奥義を知ることになる。一度身につければ自転車に乗るのと同じ身体感覚として生涯残る。

 この視点を欠いた性能向上はすべからくスピードアップに置き換えられる。世界中が法的に規制を掛けている高速性能を正当化するために高度な技術が動員されている。皮肉な現実に正面から向き合う者は稀だ。そこにはリアルな人間の満足を省みる余地はなく、フィクションに近いビジネスツールとしてのクルマがあるだけ。

  それはそれで愚かな僕にも魅力的に映るのだが、ロードスターの真価はこのサイズだからこその等身大感覚にある。 できるかぎり多くのパターンを試そうとしたが、NDロードスターは終始一貫してマナーの良い乗り味を保ち続けた。

  ステアリングは軽い操舵/保舵力でフリクションの少ないスムーズな応答性が印象的。手の平を通じてタイヤの感触が伝わるといったダイレクト感は希薄だが、結果として切ったなりのフィードバックが得られるイメージとなっている。

 荷重移動やフェイントモーションによってヨー慣性モーメントを誘発して……DSCカットはNGという約束なので望んだダイナミックバランスの確認は果たせなかった。走りのトータルな印象は、ここがポイントといった特徴的なキャラクターを封じ込め、あらゆる状況下でフラットかつ抑揚の効いた上質感を失わない。

  端的に言って、個性的かというとそうではなくて、ライトウエイトスポーツに期待される最大公約数の思いに応える。 まずはマツダが理想と考えるFRライトウエイトスポーツのスタンダードを提示し、質の高い素材性から次なる25年に向けて歩き出す。


繰り返しになるが、僕としては作者の人柄が投影されたようなキラリと光る尖った個性を一点どこかに散りばめてほしい。走り、曲がり、止まるの各シーンの何処でも良いから、濃い味とか癖があってもいい。ブレーキの開発担当エンジニアから評価を求められて窮した。オンザラインの常識的な走りでプラスでもマイナスでも印象に残るブレーキは考えものだ。

  全体のバランスに溶け込んだメカニズムこそが優れている。 僕がブレーキで評価するタイミングがあるとすれば、積極的にドリフトモーションに持ち込もうとした際のコントロール性。それはステアリングやアクセルやシフトワークとのバランスの中にある”あうん”の呼吸に属するものだ。

 誤解なきよう申し添えるが、所構わずドリフトに興じるというのでは断じてない。クルマの評価の一環として確認が取れれば、後は知りたい人に請われた時だろう。ドリフトはクルマと人が一体になるダンスのようなもの。クルマが人の身体拡大装置であるという堅苦しい事実を、柔らかく教えてくれる。

 正式発売まであと4ヶ月。今度のNDロードスターは、開発リーダー山本修弘主査の人柄そのままの真っ直ぐなクルマに仕上がっていた。 過去3代に対するリスペクトを忘れることなく、原点を見つめ直し、ファン/ユーザーあってのクルマという気づきから、誰がどう乗っても対応できる素材としてのFRライトウェイトスポーツ、その意味での質の高さを究めている。

頑固な人だからこそだが、全社一丸となってまとめ上げられた珠玉の一台は、再び世界に衝撃を与えるのではないだろうか。クルマは本来こういう身近な存在だったのだ、と。

2015年2月15日日曜日

御神体 NDロードスターのルーツ

  『御神体』 現在のマツダデザインフィロソフィーは魂動:Soul of Motion。獲物を狙う一瞬のチータの肢体をモチーフにして造形されたオブジェ。これを元にデザインされたオリジナルがShinari(靭しなり)で、CX-5、アテンザ、アクセラ、デミオという一連の最新作にもエッセンスが盛込まれている。


  NDロードスターもこの御神体の要素が随所に見出せる。靭とそっくりといえるディテールが散りばめられている。この御神体は生産部門(工場)の金型製造の匠達が、クレーモデルからデータを取り、金型を起こした逸品で、3Dプリンター製作の樹脂ものも存在する。


マツダは1980年代後半からFEMやCAE、CADを積極的に導入し、ボディ解析やシャシー設計(E型マルチリンクサスなど)力を入れている。この分野のパイオニアで、同業他社も一目置くと言われている。NDのデザイン開発にも相当力を発揮したのではないだろうか。



  今年のNAIAS(北米国際自動車ショー:デトロイト)は、スポーツカーの復権とデトロイト勢(とそれに追いすがろうとする日本勢も注力する)のドル箱ピックアップトラックが注目された。シェール革命で明らかに緩んだという感じ。デトロイト郊外のガソリン価格はガロン2ドルを切った。久々に見る1ドル台のプライス表示に複雑な思いが湧いた。今年は荒れるね。

  マツダはNAIASのお祭騒ぎを避けて(?)年末のLAショーで一花咲
かせていたので、今回のNAIASは音無の構え。MNAOのケルビンを表敬訪問しようと足を運んだけれど空振り。まあそういうこともある、とNDの前を差し掛かったら面白い光景が……男数人がたむろっている中心に見えげんばかりの大男がいて、おもむろにNDの車内に。




  座って大笑い。アタマ完全にはみ出て、トップを上げるとつっかえていた。身長どんだけ? 聞くと「2m!!」 NDロードスターは、NAよりコンパクトに仕上がっているが、キャピンはNAのUS95パーセンタイルに対して95+1ぐらいとのケルビンの説明。でもさすがに2メートルは無理だね。