VWの蹉跌
VWは完全なるクロだった。Defeat Device(排ガス制御の無効化装置)の使用を認めたのは、事が公になる約一ヶ月前の8月21日。だが、それは1年以上にわたって否定を続けた果てのgive up。
そもそもはEC(欧州委員会)が欧州各社の主張するディーゼルエンジンの規制水準に懐疑の眼差しを向けたのが2013年。普及すれば改善するはずが、むしろ悪化の一途を辿る欧州大都市のNOx、PMによる大気汚染を踏まえてのものだったようだ。
EC規制当局が米国での実路走行データを求めているという要請を受けたCARB(カリフォルニア州大気資源局)が調査に乗り出し、依頼を受け実務に当たったウェストバージニア大の研究者が、車載コンピュータの診断データの中に異常な記録が残っているのを発見し、御法度のDefeat Device使用の事実を掴んだ。VWは頑なに否定を続けたが、調査にあたった研究員の執念が優った。
VWが捲土重来の北米市場でシェア拡大の本命として選んだのがクリーンディーゼルTDI。その力の入れようは、2008年のグリーンカーオブザイヤー(G-COTY)をジェッタ(ゴルフのセダン版)TDIで獲得。
LAオートショーのプレスデイ期間中に表彰されるのが恒例で、「VW、力入ってるな!」ディーゼル乗用車不毛の地と言われたカリフォルニア・ロサンゼルスでの受賞に新しい時代の息吹を感じた。
翌2009年は3代目プリウスがノミネート。GMシボレーのボルトは翌年だし、本命は固いと思っていたら、何と前年同様VWグループのAUDI A3 TDIが連破。さすがにこれはないだろう? 地元の同胞メディア関係者と眼を見合わせた。
僕は2005年頃から始まった欧州のディーゼルブームにずっと注目し、現地で国内外のディーゼルモデルを借りてブームの本質を掴んでいた。コモンレールディーゼルが本格普及し始めた2003年以降の現象で、2005年には欧州小型車市場の50%を占めるに至った。
その理由の第一は、エコでも経済性でもなく、スポーティであること。走らせて楽しいことがまずあって、しかも経済的で高速巡行時は回転数の低さから静かで快適。目に見えないエコは2の次と考えても良かった。
トヨタが環境に優しいエコユニットとして開発したDPNR(Diesel PM-NOX Reduction system)は、環境性能はユーロ6クリアする優れモノでしたが、燃料を噴いて排ガス浄化を図るため燃費が厳しく、件のVWや尿素SCRを選んだBMW、メルセデスベンツ勢の前に撤退の憂き目を見ています。
アベンシスを現地で試しましたが、アコードの2.2Lやレガシィの2Lボクサーとの差にがっかりしたことを覚えてます。でも、CO2以外の環境性能だけで問えば屈指の存在です。今にして思えば不運だったのかもしれません。
トヨタ・ホンダの日本勢に大差をつけられていた北米市場で失地挽回を目指すあまり、CARBを欺いてまでもユーザーメリットのある燃費を優先した。アメリカで成功すれば、米国の背中を見てトレンドが形作られる中国でも期待ができる。ドイツ本国の3倍以上を売り上げる中国市場戦略の面からもTDIは期待の星だったに違いありません。
実は欧州と中国がVWにとっての主力市場で、グループで1000万台とはいっても、日本メーカーほどグローバルな展開を実現していない。エコがトレンドのシェール革命以前はハイブリッドに対抗するにはTDI以外に手持ちがない。その焦りが北米での半ば強引に無理筋を通そうとした理由でしょう。
少し引いて批評の眼を持っていれば、まず疑うところから入るはず。メーカーの広報戦略の片棒を担いで報道する姿勢を忘れてしまうと、最後は世のクルマ好きをがっかりさせることになる。いろいろ語っている同業には、まずここからやり直さないと距離が開くばかりだと言いたいです。
まぐまぐ!メルマガ『クルマの心』でさらに深く掘り下げるつもりなので、是非ご講読を検討して下さい。http://www.mag2.com/m/0001538851.html
0 件のコメント:
コメントを投稿