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2020年5月12日火曜日

『クルマの心』第第378号2020.4.21配信分

遅くなりましたが、前回(4月25日掲載の4月14日号)に引き続きまぐまぐ!の有料メルマガ伏木悦郎の『クルマの心』の4月21日配信分をお届けします。随時掲載予定ですが、下記御講読案内もよろしく!
https://www.mag2.com/m/0001538851.html
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     伏木悦郎のメルマガ『クルマの心』 
             第378号2020.4.21配信分
●パンデミックは簡単に収束しない。100年前の歴史が物語る教訓
 今世界はCOVID-19、いわゆる新型コロナウィルスによるパンデミックに瀕している。最初に中国湖北省武漢市で感染が確認されたのは昨年11月末のこと。日本で注目を集めたのは2月3日に横浜港に入港した大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス(DP)号の一件からだった。
2月1日に公海上のDP号船内で陽性発覚。船舶には"旗国主義"という考え方があり、公海上の船の管轄権は船籍を持つ国にあるという。この時点では陽性が確認されたのは一人で、すでに下船していた。横浜入港時の乗客の大半は日本人であり、入港禁止の断を下すことは難しかった。
結果的に入港を認め、3月1日に全乗客乗員の下船が完了するまでに新型コロナウィルス感染の陽性が確認できたのが延べ4089人中706人(内無症状者392人)で6人の死亡が確認された。
2月下旬の時点で、イタリア北部での感染拡大が報じられ、翌月上旬スイスのジュネーブで開催される予定だったジュネーブ国際自動車ショーの中止が決まっていた。日本ではもっぱらDP号の報道が中心で、今では世界最大の感染拡大に窮しているアメリカもまだ切実感はなかったと思う。
年明けには思いも寄らず、ほんの2ヶ月前までと今では別世界に生きているような感覚すら身に迫る。2月下旬ではパンデミック(PANDMIC)はまだ可能性を論じる段階だったが、今や現実問題として全地球を覆い、しかもおよそ100年前の"スペイン風邪" (1918~1920年) と同様に第一波から第三波まで猛威をふるう可能性が考えられるようになっている。
歴史に学べば、現段階はまだ始まりに過ぎず、経済規模や世界人口が100年前とは比べ物にならないほど大きいことが次ぎにどうなるかという予測を困難にしている。長期的な展望を持って臨まないと思わぬ躓きを喫しそうな予感がある。
戦後何だかんだ言っても右肩上がりの成長を続けてきたベクトルが、一気に反転する気配がある。歴史が繰り返されるとするなら、1929年の世界恐慌が再現され、経済のブロック化から対立が生じ乾坤一擲の世界大戦に雪崩込んだ状況がやって来ないともかぎらない。
少なくとも、今まで通りのやり方が通用しない状況がすぐそこに迫ってきている。私の個人的な感想を言えば、それが中国なのかEU(というか盟主たるドイツ)なのかアメリカなのか分からないがどこかの国の経済が破綻して時代の節目となる転機が訪れると思っていたら、新型コロナウィルスによるパンデミック禍という人対人ではない人対ウィルスが人類の進化を促す現場に立ち会うことになった。
 戦後75年の長きにわたって戦禍に塗れることがなく、交戦状態の下で日本人が命を落すという現実を見て来なかった平和が当たり前のメンタリティにとって、今が勝負の分かれ目という感覚が希薄だが、もしかするとここ数カ月の過ごし方で未来が別物になってしまう可能性があるのかもしれない。
少なくとも、今まで通りの生き方が難しくなっている現実を多くの人々が実感しているはずだ。問われているのは、どのような未来を作るかという想像力ではないだろうか?
●日本の刑事司法の如何わしさを知るのは犯罪を犯した当事者だけ?
 それにしても、昨年末は12月31日に飛び込んだカルロス・ゴーン氏国外逃亡の報から明けて1月8日にレバノン・ベイルートにおいて記者会見を開いたことが遠い昔の出来事のよう。COVID-19新型コロナウィルス禍による世界の変貌ぶりからすると小さな事件に感じられるようになってしまったが、ポストパンデミックの世界を考える上でゴーンスキャンダル抜きに語ることは出来ないだろう。とりわけ日本とその基幹産業たる自動車の未来は、この事件の精算を経ずして論じるのは難しい。
それ以前に、日本の自動車産業がポストパンデミック時代に今まで通りで存在できるかどうかという問題もあるが、まずは日本人にとってのグローバリズムや日本特有の司法制度の実態が明らかにされることになった現職の外国人代表取締役会長が、東京地検特捜部によって来日直後に羽田空港でいきなり逮捕され、そのまま起訴され、本人否認により拘留された。
容疑は、当初金融商品取引法の有価証券報告書の記載不正とされ、数十億円という単位で記載を不正に免れたことにあると報道された。それはあたかも脱税でもしでかしたかのような論調で、検察が逮捕したという段階で(検察や日産からのリークによる)バッシングが記者クラブメディアから雨あられの如く溢れ返った。検察に起訴されれば99%超が有罪になる事実から、逮捕されたということは起訴確実となり、それはそのまま有罪につながる。とりわけ地検特捜部による"特捜事案"については組織の面子に賭けて無罪はあり得ないという『鉄則』があることを、私はこの事件を通じて知った。
当初金商法の有報不正記載については詳細は明かされなかった。その間にゴーン氏の"強欲"、"独裁者"、"会社の私物化"といった一方的な断罪が既存マスメディアを通じて徹底された。フクイチ原発事故などこれまで何度も見た光景だが、ようやく5日後に明かされた起訴の内容は『記載されなかったのは、退職後に受け取る報酬の覚書に書かれた金額』という、その不記載が罪になるとは到底思えないものだった。
 しかし、逮捕から起訴されたという事実を以て、その数日後に開かれた日産取締役会(C.ゴーン氏とG.ケリー氏はこれに出席するために来日した。ことにケリー氏は翌月に持病の手術を控えていて出席に難色を示したが、日産経営陣にチャーター機を用意し、3日後には帰国できるという半ば騙しの手口で呼び寄せられた)でゴーン、ケリー両氏を代表取締役から排除している。
 逮捕起訴の容疑が、実際に受け取っていない報酬の不記載だったという事実が明らかにされたのは、日産の取締役会がC.ゴーン、G.ケリー氏を代表取締役の座から引きずり下ろした後。当然のことながらゴーン氏は検察の取り調べに対し無実を主張し、そのために拘留は最大限延長された。当初有報不記載容疑は2011~2015年までとされたが、否認により拘留期限切れとなる。すると検察は2016~2018年度の同容疑で再逮捕する。同じ罪状を2期に分けて起訴するという無理筋の上塗りをして拘留の延長を図る。
 私は『人質司法』という言葉をこの時初めて知ったが、日本の刑事司法では検察による自白調書が最優先される。(検察によって)起訴された刑事事件の99.4%は有罪となるという。その高い有罪率は、通常警察の捜査によって逮捕された事実を受けて検察が起訴する段取りとなっているからで、有罪となる確証が得られない事件については起訴を見送る(不起訴処分)のが通例だ。つまり起訴=有罪を意味する。このことから、検察が起訴した段階でマスメディア(特に記者クラブメディアは顕著だが)はまだ被疑者の段階でも罪人視しがちな傾向にある。
 刑事司法においては”推定無罪”の原則があり、公正な裁判によって有罪とならないかぎりは犯罪者として認定されないのが国際標準となっている。日本においては、自白が最も有力な証拠とされるが、起訴後の取り調べにおいて無実を主張し罪の否認を続けると検察の請求により延々と拘留される。この検察の取り調べも弁護士の立会いを認めない民主主義の先進国としては異例のスタイルで、長期拘留に耐えかねて保釈を得るために自白して、裁判で一転して無罪を主張する事例が絶えない。
 刑事裁判の当事者にでもならないかぎり知り得ない話だが、これが日本の刑事司法が”人質司法”であると国際的な非難の的になっていることを日産/ゴーン事件によって初めて知った。
 さらに言えば、このゴーンスキャンダルは東京地検特捜部が独自判断で逮捕起訴を行なった『特捜事件』であり、過去にも政治家や高級官僚、大企業経営者などといった、いわゆる”巨悪”と括られる人々が対象とされ、一度逮捕起訴されれば極稀な例を除いて(郵便法違反で大阪地検特捜部が逮捕起訴した村木厚子厚労省局長事件が有名。この時は担当検事の証拠改ざんが発覚し検察の権威失墜を招いた)多くの著名人が獄中の人となった(ex堀江貴文、佐藤優、鈴木宗男、佐藤栄佐久、江副浩正……)。
●事件発覚からの5日間で徹底された極悪ゴーンのレッテル貼りを信じる日本社会
このスキャンダルの異例な点は、2018年6月から施行されていた日本版司法取引の2番目の例であり、しかもその結果が国際的スキャンダルとなったという事実において歴史的な転換点となる可能性を秘めているところにある。日本で採用された司法取引は、「他人負罪型」といって他人の犯罪について供述をすることを検察官に約束をする代わりに自らの処罰の軽減を求める。米国などで採用される自分の容疑事実の一部を認める代わりに他の犯罪事実を立件しなかったり処罰の軽減を約束する「自己負罪型」とは異なる。
どうやら、これは日本の司法制度の下では罪を犯した者がその事実を認めるのは当然であり、自白をしたからといって特別の恩典が与えられる理由はないという、日本社会の一般通念があるそうだ。他人の犯罪については元々供述する義務はないので、その供述を敢えて行なった者を優遇する制度の導入には比較的抵抗がなかった、ということらしい。
いずれにしても、この司法取引による日産経営幹部(当時)の供述を元に東京地検特捜部の捜査が始まり、2018年11月19日夕刻に衝撃的な現職のカルロス・ゴーン日産代表取締役会長とグレッグ・ケリー同代表取締役の逮捕に結びついている。
あれからすでに1年と6ヶ月の時が流れた。昨年12月31日には「私は今、レバノンにいる」という驚きの映像が、世界が瞬時につながるインターネット社会の現実を通じて届けられ、年明けの1月8日はベイルートから世界中のメディアを集めて記者会見が行なわれた。
 未だにほとんどの日本人は、事件発覚後からの数日間で豪雨のように降り注がれた(記者クラブ)マスメディアによる印象捜査によって、C.ゴーン氏=金に汚い強欲の独裁者というレッテルを深く刻み込んだままでいるようだが、それらがすべて(ゴーン/ケリー両氏の取締役会からの排除を画策した)当時の日産経営陣と一体化した地検特捜部によって一方的に流されたものだったということを省みることすらしない。
 前置きが長くなったが、去る4月15日、昨年11月から12月27日まで5日間延べ10時間にわたって東京でインタビューを行なった元特捜検事の郷原信郎弁護士による著書『「深層」カルロス・ゴーンとの対話(起訴されれば99%超が有罪になる国で) 』が出版された。
 全319ページの長尺で、一方に偏ることなく日産検察側とゴーン/ケリー氏及び弁護陣双方の立場から検証を試みるという法律家らしい慎重な姿勢から、読み物としてのエンターテインメント性を欠いてやや退屈な面もあるが、じっくり読んで納得を得るにはこれくらいの用心深さは必要かと思わせた。
 私としても、発売日は予告されていたのでアマゾンで購入したが、忙しさにかまけて(相変わらず週3で相模原の物流センターで肉体労働に励んでいます)読了に一週間を要してしまった。
●ゴーン氏はルノー(フランス政府)が望む統合には反対だった!
 結論としては、事件発覚当日のFACEBOOKやtwitterで事の経過を追いながら発信した断定した『クーデター』説に間違いはなく、当初数日間に渡って明かされることがなかった金融商品取引法の有価証券報告書の虚偽記載の中身は、退職後に受け取る報酬についての覚書という、取締役会にも株主総会での議決を経ないおよそ法的根拠のない司法取引に応じた元役員(秘書室長)とC.ゴーン氏が交わした書面を以て立件を企てた地検特捜部の無理筋に過ぎなかった。
 2011年3月期から2015年3月期までの5年分と2016年から2018年同期の3年分という同じ内容を二つに分けて2度の逮捕身柄拘束を実現し、その間に自白を得ようとする従来通りの特捜部マインドで臨んだところが、ゴーン/ケリー両氏ともに当然のことながら無実を主張。『人質司法』対する国際世論の高まりに、裁判所が保釈請求を許可すると、東京地検特捜部はさらにゴーン氏を会社法違反(特別背任)として2つの事案で再逮捕している。
 サウジアラビアルートとオマーンルートと称された特別背任の罪状は、いずれも肝心の一方の当事者であるハリド・ジュファリ氏(サウジルート)からもスヘイル・バフワン・オートモビルズ(SBA)のバフワン氏からの供述は得ておらず、資金の流れについても当時の日産経営陣も了解済みの正当なものだったのを、検察特捜部の創作による筋書きに当てはめようとする”無理筋”の結果という見方が説得力を持つようになっている。
 要約すると、そもそもの発端は日産の最大株主として43.4%を保有するフランスのルノー社による日産の統合にある。ルノーの株式を15%握る最大株主のフランス政府の意向であり、2015年に最初の危機が訪れている。時の経済産業デジタル大臣だったエマニュエル・マクロン現大統領が統合に積極的だったといわれたが、日本側はRAMA(Restated Alliance Master Agreement=改定アライアンス基本契約)を楯に抵抗して難事をかわしている。
2018年はゴーン氏のルノー会長職の任期が6月で切れるタイミングとなっていた。これを機にゴーン氏は日産/三菱のグループ戦略に専念するとみられていたが、実は統合に意欲的だったのはルノー(というかフランス政府)であり、ゴーン氏の立場は緩やかなアライアンスによってルノー、日産、三菱それぞれの独立性を活かす考え。
 私は、当初36.5%やがて43.4%と出資比率を高めたルノーの傘下に日産が入るのが当然と思っていたが、フランス・ブラジル・ヨルダンに国籍を有するコスモポリタンにしてグローバリストのゴーン氏は統合は失敗するとの見込みからアライアンス=提携によるシナジー効果を推進。2016年には三菱の不祥事に乗ずる形で日産の傘下に収め、トヨタやVWと比肩して世界一も視野に入る成功例として評価される実績を上げている。ルノー(というかマクロン仏政権)が渇望する経営統合には反対だが、要となるルノー会長職の地位に留まるには「ルノーと日産の関係を不可逆的にする」ことが求められた。
 一計を案じた結果としてゴーン氏が導き出したのは『持ち株会社』を設立して、各社の独立性を維持する。これに対してかつての日産を記憶する西川廣人前社長CEOを中心とするプロパーはブランドを維持するために財団方式を主張したといわれる。
いずれも郷原氏の著書『「深層」カルロス・ゴーンとの対話」で知ったことだが、長年にわたる私の疑問”何故ルノーは当初から日産の経営統合を急ごうとしないのか”は、カリスマ経営者として国際的な評価を得ているC.ゴーン氏の手腕の結果と結論づけられる形となった。
●私が(スカイライン)GT-R徹底批判に転じた理由(わけ)
 思い起こすのは、1999年11月の初旬だったと記憶する。同年10月18日の日産リバイバルプラン(NRP)の記憶も新しい晩秋の箱根(プリンスホテルの広い宴会場)でCOTYメンバーを中心とする自動車ジャーナリストと四角くテーブルを設えた懇談の場である。
 席上、血気の47歳だった私は真っ先に手を挙げ「あなたは誰のために日本にやって来たのですか?」シンプルにそう質した。すると開口一番「日産のためです(For NISSAN!)」。
率直に言って意外だった。来日以前から、稀代のコストカッターにしてリストラの権化であり再建請負人。得体の知れない外国人には異様に弱い日本のマスメディアが貼ったレッテルとは違う第一声だった。
シンプルな一言に続く説明は長かったが、その中身はほとんど記憶にない。ただ、個人主義の塊で本人の栄達が最大のモチベーションだという西欧育ちのエリートらしからぬ予想外のコメントが今でも脳裏に響き渡っている。
翌2000年には黒字化を実現し、2002年度に連結売上高営業利益率4.5%以上、同年度末に有利子負債を7000億円以下に圧縮というコミットメントをそれぞれ1年前倒しで実現。1年で黒字化を果たせなかったら経営陣すべて責任を取って辞任すると言い切っての成果は、日本人の常識を遥かに超えるものであり、鵜の目鷹の目で”お手並み拝見”と上から目線だったマスメディアは皆沈黙するほかなかった。
 この時の強烈な印象と『Zカー』フェアレディZのブランド価値とGT-Rが示した技術の日産を象徴するブランド価値に注目し、”直轄領”として再生の責任を負う姿勢に興味を持たざるを得なかった。GT-Rをスカイラインというドメスティックブランドに留め置かずに日産GT-Rとしてグローバル展開を試みた点も注目だった。
 知る人もあるかと思うが、私は世の多くのクルマ好きの絶賛とは一線を画し、R32スカイラインに始まる第2世代のGT-Rには批判的な目を向けている。デビュー当初こそはまだテスターとして現役であり、毎週のように通っていた谷田部(JARI)や筑波サーキットでの驚異的な走りに夢中になっていたが、ある日気がついた。
スカイラインは基本的に輸出されないドメスティックブランドであり、RB26DETT型直6ツインターボにアテーサE-TSというR32GT-Rのコア技術である4WDシステムは基本的に左ハンドルが作れない構造となっている。
”R”のコンセプトそのものが当時の国内グループAレースシリーズの規則を精査した結果であり、グローバルな広がりは当初から考慮されてはいなかった。R32が第2世代GT-R3部作最大のヒットだが高々4.3万台、R33、R34合わせてもわずかに7万台強である。
 メインのスカイラインシリーズの存在が比較的低価格でスーパーパフォーマンスを販売できた秘訣だったが、GT-Rの名声とは裏腹に飯の種のベースグレードは低迷した。この経営視点を持たない過剰な技術導入が”技術の日産”という亡霊を呼び覚まし、後の経営破綻につながるエンジニアの暴走とその真逆の退屈極まりない日産車の堕落につながったと私は見る。
 批評の精神を忘れて自動車メーカーのパブリシティの片棒を担いだメディア/ジャーナリストは未だに理解していないようだが、ゴーン氏を排除して20年前の日産に逆戻りさせた現在の経営陣の無能さに気づけないメンタリティの根は同じところにあると思う。
私はR32では実験主担、R33とR34の開発主管を務められた渡邉衡三さんとは再三再四激論を交わした間柄でもある。渡邉氏は「レースがやりたくて日産に入った」という非常にロマンチックで純粋なエンジニアだが、私はGT-Rの実力を認めた上で、それでも「あれは禁じ手だった」と今でも断言できる。
 現行R35GT-Rはゴーン直轄領であり、CPSとCVEを兼任した水野和敏全権によって世に出たクルマだが、当初の777万円というプライスタグであの性能/クォリティは果たして現実的なものだったか。
発売から丸12年以上もフルモデルチェンジ出来ないままでいるという事実が物語るのは、第2世代のGT-Rと同じ採算よりもロマンに走り、結果として会社を傾きかねない象徴的存在だった、ということではないか。水野全権が嘱託を解かれて日産を去ると瞬く間にベースグレードが1000万円の大台を超えて行ったあたりに、フルモデルチェンジ出来ない日産GT-Rの現実が潜んでいる、と思う。
 すでにC.ゴーン氏は日産の経営から追い払われて1年6ヶ月。経営を西川廣人前社長に委ねた2017年からの3年で、日産は再び存亡の危機に瀕してしまった。一度傷ついたブランドを再び元に戻すのは至難の業。1918~1920年の”スペイン風邪”が後の世界恐慌に結びつき、経済のブロック化が乗るか反るかの乾坤一擲を喚起し、世界大戦まで行った史実と合わせると、新型コロナウィルスCOVID-19による時代の変化は文字通り『100年に一度の大変革』を招来し、元通りに帰るとは考えにくい。
●日産は生き残る価値を失い、トヨタも安閑とはしていられなくなった
今年は京都で『第14回国連犯罪防止刑事司法会議』(通称京都コングレス)が行なわれる予定だったという。4月20日から27日までの1週間の開催は折からのコロナウィルス禍により無期限延期となった。日本での開催は50年ぶりとかで、法務省関係筋は腕まくりしていたというが、当然のことながら一昨年に始まるゴーン/日産事件で再び国際的な批判に晒された『人質司法』について喧々諤々となると思いきや、京都コングレスでは日本独自の刑事司法の功罪を議論する場は用意されていなかったという。
 自国開催の国際会議で自らが苦境に立たされる場を設けるはずもない、といえばそうだが、無事で通れる筋でもなさそうだ。今般のコロナウィルス禍は、日本の法務省にとっては批判に晒されることを避けたという点で”神風”かもしれないが、ここで一計を案じた人が立ち上がった。
 詳しくは元公認会計士で現在は会計評論家として知られる細野祐二さんの公式ホームページhttp://yuji-hosono.comをご覧いただきたいが、氏が主宰するyoutube channel:複式簿記研究会では『人質司法』に特化した連続シンポジュウム(裏コングレス)を開催している。
 4月22日から第一回の配信が始まっていて、4月24日の第三回では「日産ゴーン事件とゴーン元会長の海外逃避」と題して、ヨルダン・ベイルートからC.ゴーン氏がweb出演することになっているhttp://youtu.be/pOhvWDkNxBA。
これには主宰の細野祐二氏とともに「『深層』カルロス・ゴーンとの対話」著者の郷原信郎弁護士も出演し、著書の内容を踏まえて解説している。カルロス・ゴーン氏へのインタビューもあり、その肉声による"事実"は多くの人々の判断材料となる生の情報と言えるだろう。
残念ながらではあるけれど、日産は1998年末の崖っぷち以上に厳しい現実に直面していると言わざるを得ない。日産には友人知人も少なくないが、時計の針を20年前に逆戻りさせて「日本人の日産を取り戻す!」と言うのは勝手だが、誰がどうやって?を欠いた精神論が通じるほどビジネスの世界は甘くはないだろう。ましてや100年の時空を超えて襲ってきたパンデミックの嵐に、国内販売の10倍を売り上げるグローバル市場でのブランド毀損の意味は果てし無く深い。
 実はことは日産だけの話ではなく、すでに2020年3月期の三菱自工は200億円を超える赤字を計上して元の木阿弥となりつつある。C.ゴーン氏の構想にはFCA(フィアットクライスラーオートモビルズ)とのアライアンスもあったといい、それが実現すればすでに提携関係にあったダイムラーAGと合わせて日米独仏伊からなるグローバルアライアンス群が生まれた可能性があった。
今回のCOVID-19コロナウィルスによるパンデミックは、この先どのような変化をもたらすか不明だが、世界的な評価を得ていたカリスマ経営者がこの難局をどう乗り切るのか、見てみたかった気がする。乗り切れずに終わることも含めて、歴史にはタブーの"タラレバ"を考えずにはいられない。
私の見立てでは、盟主トヨタも安泰ではなく、日産ほどではないにしても総収益の8割近くを海外販売に依存している現実は軽くはない。最大の問題は無謬性と前例主義で硬直化した官僚統治機構が時代の変化に対する抵抗勢力となっていることだろう。そのアップデートが喫緊の課題であり、自動車のモビリティを根本から再構築してグローバルに通用する自前のコンセプトの提示なしに現在の世界シェアを維持する未来はやって来ないのではないか。
 ここでも、本来メディアがなすべきジャーナリスティックな視点に立った議論が待たれるところだが、残念ながら今のマスメディアに期待できるものはほとんどない。
                                      
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