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2020年5月31日日曜日

12年前の”リーマンショック”(2008年9月15日)直後に、それが世界的な、景気後退(リセッション)につながると予測する日本の製造業や報道関係は少なかったが、自動車メーカー各社は空前の業績不振に陥った。
今回のCOVID-19パンデミック禍は、あの時を上回る深刻な事態を招くという見方が一般的。リーマン‥‥の時も深刻さが一般に浸透するのに半年ほど掛かったはずだが、見えざる敵が相手の今回はまだ身に沁みて痛みが伝わるまでに至っていない。
すべてはこれからだと思うが、総崩れにならなければいいのだが。メルマガ『クルマの心』第381号では、実はトヨタが危ないという『トヨタが地上から消えてなくなる日』を連載した昨年来の展開を再び辿っています。

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           伏木悦郎のメルマガ『クルマの心』 
             第381号2020.5.12配信分


●トヨタも再び赤字に沈む予感がする。危機は好機となり得るか?

 トヨタ自動車は5月12日、2021年3月期の連結営業利益が前年比8割減の5000
億円となる見通しを発表した。インターネット中継による決算会見で明かされた
想定によれば、世界の新車販売は22%減の700万台。通常期なら”ぎょっと”す
る見通し公表だが、今は世界中あちこちの工場が止まっている非常事態である。
席上、豊田章男社長は「国内生産300万台の死守」「次世代技術への投資継続」
などを強調し、安心感の醸成に努めた。

「クルマを造ることで、仕入れ先の工場が動き、地域社会が動く。多くの人の
(通常の)生活を取り戻す一助となる。危機的状況だからこそ、分かっている状
況を正直に話し、一つの基準を示すことが必要だ。基準があることで、皆さん、
何かしらの計画や準備ができる」いつもながらの正論であり、異論を差し挟む余
地がないように見えるが、私は豊田社長の言を額面通り受け取ることを避ける習
慣を身に付けている。

 日経ビジネス(business nikkei.com)が伝えるところでは、『見通し』を出す
かについてはトヨタ経営陣の中でも議論があったという。前述の理由で先行きを
見せることを選び、販売台数が2割以上減っても5000億円の営業黒字を出せると
示したのは経営トップの(願望に近い)意志であり、希望的観測を含む影響力の
誇示なのだろう。その上で強調したのが、国内生産300万台という現在の生産体
制の維持の必要性ということだろう。

「(超円高などがあっても)守り続けてきたのは、世の中が困った時に必要なも
のを造ることができる技術と技能を持った人材。人はカイゼンの源で、モノ作り
を成長、発展させる原動力だ」サプライチェーンを含む『トヨタ経済圏』の人々
に向けた豊田社長の言葉は、内向きのリップサービスとしては一定の効果が認め
られる。ただ忘れてはならないのは、トヨタは収益の大半を国外から得る世界的
なグローバルカンパニーであり、『三河モンロー主義』と言われた四半世紀前の
ニッポンのトヨタとはまったく異なる業態となっている。

 同じ日に2020年3月期決算を発表したホンダ(本田技研工業)は、2021年3月
期の業績予想の発表を控えた。自動車各社の世界販売は一様に激減し、生産調整
によって各国各地の工場は軒並み休止している。欧州や米国では生産再開の兆し
があるものの、まともに稼働を始めたのは中国ぐらいでしかない。「様子見」と
いうスタンスに留まるホンダは、国外の生産/販売規模が国内のそれを圧倒的に
上回る(販売ベースでおよそ10対1の比率)。等身大という意味ではグローバル
カンパニーとして生きる宿命にあるホンダの方が現実的と見ていいだろう。

●マツダは危機を乗り越えられるだろうか?

 
 いっぽう日産は、2020年3月期連結最終損益でリーマンショックに沈んだ2009
年3月期以来の赤字に転落するのが確実だ。2016年に度重なる不祥事の末に日産
の傘下に収まって久しい三菱も2020年3月期で260億円の赤字を計上するといい、
『親会社』のルノーも赤字に沈むのが必至となっている。

 ルノー日産三菱というアライアンスメンバーシップは2016年にグローバル販売
世界一の座を視野に入れたのも束の間、C.ゴーン社長自らが招請したとされる
盟友中村史郎CCO(チーフクリエィティブオフィサー専務執行役員)とともに
第一線から退いた2017年4月からのわずか3年間で崖っぷちに転落する憂き目を見
ている。

  今般のCOVID-19パンデミック禍はすでに危機的状況にあった日産に止めを刺す
かのような厄災であり、運がないといえばそうだが、ブランドコアに位置してい
たカリスマ経営者を無定見に引きずり下ろした挙句、会社を存亡の危機に陥れた
ことの責任を、西川廣人前社長を始めとするプロパー経営陣や東京地検特捜部を
先鋒とする政府筋、さらにはそれらに同調した全マスコミはどのようにして取る
のだろう。

  日本の自動車メーカートップ5の一角を占めるマツダも無事では済まなそうだ。
同社が3メガバンクに3000億円規模の融資を要請したと報じられたのは3日前の
5月9日のこと。日本やアメリカでの販売苦戦にCOVID-19感染拡大による収益構
造の急激な悪化が加わった。事業活動に関わる現金の流れ(キャッシュフロー)も
マイナスとなったことから手元現金の積み増しする必要ができた。

  事態はリーマンブラザーズ破綻を受けて世界金融恐慌状況に陥った2008年から
の5年間よりも厳しい。当時は深刻な状況が"危機バネ"として作用し乾坤一擲の
SKYACTIV TECHNOLOGYと魂動デザインを創出。時流に乗ったSUVのCX-5
皮切りに『6世代』と称する新生MAZDA商品群によって新境地を拓く端緒につ
ことが出来た。2010年晩夏のベルリンとミラノでなけなしのキャッシュを集め
開催したテクノロジーフォーラムとデザインワークショップ発の情報が起死回
をもたらし、マツダブランドは俄かに活気づいた。

  実は重要なのは次の『7世代』であり、6世代以上のインパクトを発信しない
と息切れの恐れがあった。ブランドは我慢であり、継続の中からしか本物は生ま
れない。ところが、金井誠太会長/小飼雅道社長から引き継いだ現経営陣は小さ
な成功に慢心し自らの技術とデザインの大本となる商品企画に緩みを生じさせた。

 次代の大変革(FR化)に向けたブリッジモデルと位置づけられた2代目CX
-5には初代ほどのインパクトはなく、世界的なドル箱的存在なのに華を欠いた。
過去の例からすればグローバルな販売エースのマツダ3(国内もアクセラを改め
MAZDA3で統一)に力を入れたくなる気持ちは分かるが、すでに過去の遺物化しつ
あるドイツ流価値観(パワー/スピードで価値を測る手法)に囚われ、独自技術で
もあるSPCCI(Spark Controlled Compression Igmition:火花点火制御圧縮着火)
のSKYACTIV-X への過信とブランドプロミスの重要性を忘れた国内導入のディレ
イによって信頼を失った。

  最大の問題は、SKYACTIV-D(ディーゼル)に対して、経済性でも動力性能面でも
そう大きなアドバンテージもないのに、良いモノなら当然と言いたげな高い値付
け。これは北米向けの直4ターボモデルにも言えることだが、如何に技術的に優
れているとしても、価値判断を下すのはエンドユーザーである。過剰な性能より
も適切かつ分かりやすいトルクフルな動力性能のディーゼルに対して、ガソリン
ターボエンジンとしては良く出来ているが大排気量の代替品としか受け取れない
イリュージョン性に乏しいテクノロジーに共感する者は稀だろう。

  もう一つ。5年前のTMS(東京モーターショー)2015でRX-VISION、TMS2017で
はVISION-COUPEをワールドプレミアし、2019年5月には決算報告会見の場で直6
エンジン/FRプラットフォームの「Largesアーキテクチャー」の商品開発を正
式に表明しておきながら、同年末にこれまたディレイ。2021年にも導入される計
画だったが1年先送りとなった。目下の厳しい市場環境を考えると、2年後でも
困難であり、日の目を見る前に企業としての存続すら危ぶまれる状況に立ち至っ
ている。

 6世代の販売が好調な次期にスピード感を以て7世代の価値創造を急ぐべきだ
ったのに、小さな成功に満足して回復途上である現実を忘れた現経営陣の責任は
重い。それがトヨタとのアライアンス締結に伴う慢心によるものだとしたら、憂
慮すべき事態だと思う。私は過去40年以上に渡ってマツダの浮沈を目にしてきて
いる。その意味では現経営陣よりも問題の本質に気づける立場にあると思う。そ
の中核に、豊田章男社長の存在にあることを指摘する者は稀だろう。

●豊田章男氏に見る無類の運の良さはどこから来たのだろう?

 私が危惧するのは、日本人受けしやすい内向きの発想である。豊田章男氏は言
うまでもなく豊田自動織機の発明で知られる豊田佐吉翁の曾孫に当たる。祖父は
豊田自動織機から独立してトヨタ自動車を創業した豊田喜一郎。父君は豊田章一
郎トヨタ自動車名誉会長であり、トヨタ自動車直系の三代目という血筋である。

 20世紀の間はほとんど無名であり、”大政奉還”の名の下に創業家回帰が喧伝
されるようになったのは今世紀(21世紀)に入ってからと記憶する。しかし、ミ
レニアム期のトヨタは、1995年6月に豊田章一郎氏の後を受けて社長職を引き継
いだ実弟の達郎氏が病に倒れ、奥田碩氏から張富士夫、渡邉捷昭氏と3代続く内
部昇格のサラリーマン社長時代が続いた。

 ”石橋を叩いてなお渡らない”と揶揄された保守的で慎重な経営が目立った創
業家から一転、バブル~バブル崩壊~日米自動車協議妥結という時代の変化への
対応を迫られた非創業家経営陣の切り札奥田碩社長は大胆な海外現地生産化に舵
を切り、3代でグローバル生産/販売を倍増させる施策を敢行した。北米を最有
力市場と定め、対米現地化では先行する日産/ホンダ勢に大きく後れを取ってい
たが、10年余の間に現地生産を最大化させ、輸出と合わせて国産メーカー最大の
シェアを占めるに至っている。

 2007年には米国現地生産は170万台に達し、日本やNAFTAを活用した近隣国から
の輸出を合わせると240万台超(2017年)を記録。ゼネラルモータース(GM)、フォ
ードに次ぐ第3位メーカーの地位を確立している。アメリカだけでなく40万台/年
というハイピッチで海外現地化を推進し、1995年からの10年間で世界生産(日本
を含む)はほぼ倍増の約900万台に業容を変えている。

  日米自動車協議は貿易相互主義の立場から日本からの輸出だけでなく、米国か
らの輸入を促進することが盛られ、実際にGMシボレーブランドをトヨタ車として
OEM販売することも実行された(トヨタ・キャバリエ)。いずれにしてもアメリカ
はトヨタにとっての最重要市場と定められ、結果として中国に求められた合弁進
出が後手に回る。そのことが中国北京政府の不興を買い、長く中国市場で後塵を
浴びる憂き目を見ることになる。

  そこに2008年9月15日のアメリカ大手投資銀行グループ・リーマンブラザーズ
の破綻がやって来る。ミレニアム以降の米国経済を牽引していた不動産景気が低
所得者向けのサブプライムローンの証券化をともなう不良債権化でバブルと化し
複雑な金融商品化によって世界の金融市場を大混乱に陥れた。ミレニアム以降の
好景気は一夜にして暴落し、世界の自動車産業は軒並み赤字転落を余儀なくされ
た。トヨタも例外ではなく、60年ぶりの営業赤字に転落した。

  歴史に"タラレバ"はタブーだが、もしもリーマンショックが米国政府による救
済によって火消しされ、世界的な恐慌状態が訪れなかったら、当時米国トヨタ社
長として敏腕を奮った木下光男氏が当時の渡邉捷昭社長に次ぐ4代目内部昇格組
トップとして君臨。創業家三代目の芽はなかったとも言われている。運も実力…
というより運こそ実力とも言われているが、斯くして3代に渡る”外様”統治は
終焉し、2009年6月から数えて丸11年という長期政権が今試練の時を迎えている。

 そして問題の本質は、すでにトヨタはグローバル化して久しく、日本の国内目
線だけでは語れなくなっているという点にある。この根本的な現実に向き合える
かどうかが問われているはずなのだが、日本では相も変わらず全体の15%ほどで
しかない国内市場中心のマスメディアを中心とする論調が幅を利かせる”昭和の
気分”に満ちている。 

●日本の常識が世界の非常識であることを肌で知るか否か

 日本語の壁に守られ、読者視聴者の大半が日本人という環境下におけるマスメ
ディアは、世界の中にある日本ではなく、日本にとっての世界という受取側が好
み、発信元にとって都合の良い視点での情報提供が中心となりがちだ。トヨタを
例に挙げれば、実質的に富をもたらす利益の大半は海外市場での売り上げが占め
ているはずだが、メディアにとっての顧客とメーカー国内担当者にとっての顧客
は圧倒的な量と質的な価値が問われる国外ではないドメスティックな存在だ。

 すでにグローバル市場で通用する日本人経営者が限られていることは明らかと
なっている。ごく一部の創業者を除けば、アイデアやカリスマという点で世界を
相手に出来る人材は稀で、組織の論理で育った内部昇格組の日本型サラリーマン
経営者が通用する世界はなくなったと断じて良いかもしれない。

 ここで思い出されるのは1999年6月にCOO(最高執行責任者)として日産に
赴任したカルロス・ゴーン前会長である。初来日は45歳。赴任からわずか4ヶ月
でNRP(日産リバイバルプラン)を発表し、翌年に黒字化を成し遂げて取締役。
さらに2001年6月に有利子負債の圧縮を1年前倒しで達成すると当初の想定を超
えて日産に請われる形でCEO最高経営責任者に選出されている。

 時に47歳と大手自動車会社の経営者としては圧倒的に若く(同じく1999年にマ
ツダ社長に就任したマーク・フィールズ氏の39歳ほどではないが)、2017年に社
長CEOの職を辞した時でも63歳でしかなかった。在任17年間で積み上げた世界
的なプロ経営者としての名声は日本国内は元より国際的なカリスマとして抜群で
その存在感は海外において輝きを増す。

 私が国際自動車ショー取材に傾倒するきっかけは、C.ゴーン氏(やM.フィ
ールズ氏)のグローバリズムに乗った国際市場重視の姿勢からメディアを介した
プレゼンテーションに活路を見出そうという経営スタイルを追うプロセスから。
バブル崩壊によってシュリンクした日本の国内自動車市場が、かつての護送船団
方式を取る霞が関の中央官僚機構の既得権益によってアップデートされない閉鎖
性を持つことに、日本の常識に囚われない外国人経営トップならではの視点で明
確化された。

 私は日本の雑誌メディア育ちなので、こちら側の止むに止まれぬ都合は理解出
来るが、いっぽうで1980年代の前半からドイツメーカーを中心とする欧州や米国
の現地プレスツアーで国内外の相対化が出来ていた。その上で日本メーカーの外
国人トップに引っ張られるように海外取材に出掛けると、『日本に居ては知るこ
とのない日本車が多数国外に存在する』ことに気づかされた。

 日本国内に留まり、日本の国内目線だけで日本メーカーを見ていてはその本質
を見誤る。そのことに気づいてからというもの、現地での仕向け地専用モデルに
試乗し、多くの経験を積んだ。自動車ジャーナリストとしてはあるまじき行いと
の誹りを覚悟で告白すれば、速度超過などの違反で罰金を払った国はフランス、
ドイツ、アメリカがあり、最低の速度超過は実に2km/h。パリのペリフェリック
(都市環状高速道路)直前の放射高速道の自動計測では確か7km/hほどの超過で30
ユーロほどをオンラインでクレカ払いしたこともある。

  事前に下調べをして、未然に防ぐのが本来の姿勢だろうが、私の場合は行動が
先に立つ。褒められた話ではないが、人間失敗に学ぶほど身に沁みることもない。
カリフォルニアではスマホと自撮り棒でドライブ中にFBのライブ中継を試みた。
これも基本的にNGの類だが、まずはトライ。

  すると、気がつくと背後にパトカー。最寄りのパーキングて止まる指示がなさ
れ、免許証の提示を求められた。米国カリフォルニア州はジュネーブ協定には非
適合で、国際免許証だけでは駄目。日本の写真入り本免許の提示がマストになる。
照合の末無罪放免となったが、聞けば停めたのは通報によると言う。交通の流れ
からすると(遅すぎて)目立ったようで、交通の流れの中の誰かが通報したという。
飲酒かドラッグが疑われたようだが、なるほどそういうことがあるのか、と納得
した。以後は機材が整っていない状態では無理しないことに決めた。

●日本の中に多様性が実在することを知る必要性

  話を元に戻すと、ゴーン氏にしてもフィールズ氏にしても、若くして訓練を積
んだプロの経営者であり、プレゼンテーションのスピーチにしても最初から堂に
入っている。立ち居振る舞いにしろ、ファッションにしろ、すべてが企業を代表
する者として意識され、ステージに上がった瞬間から評価の対象になる。

  C.ゴーン氏の場合都内のホテル会場で行なわれたNRP発表が初の檜舞台だ
ったが、そこに弱冠45歳という言い訳など欠片もない。翌1999年11月の箱根試乗
会での懇談の場での堂々と渡り合う姿も強烈な印象として残っているし、翌年か
らのデトロイトに始まる国際自動車ショーのブースメインステージで見せた上質
なパフォーマンスの数々を知っていれば、これに代わる人材は居る?となること
請け合い。その現実を大半の日本人(含むメディア/ジャーナリスト)は知らず、
それが意味する価値に思いが至ることもない。

 C.ゴーン氏にしても、M.フィールズ氏にしても、企業の顔としての経営ト
ップに相応しい立ち居振る舞いが自然に身についていた。阿吽の呼吸があり得る
日本では仰々しいとさえ映るパフォーマンスの必要はないが、ショーアップが基
本のワールドプレミアではその出来が商品性すら左右する。

 アジア人は押し並べて表現下手であり、アジア訛りの貧弱な英語は非ネイティ
ブには聞き取りやすいが、英語が基本の人々にはプロンプターの文面を追う者も
少なくない。エンターテインメントの世界ではないが、パフォーマンスは武器で
ありブランド価値にも直結しかねない。その現実を知らずに、根回しで内部調整
を図るのが当たり前の日本的サラリーマン経営で世界を相手に出来ると考えてい
るところに、グローバル化に対応しきれない日本の現実がありそうだ。

 今回のCOVID-19パンデミック禍が明らかにしたのは、グローバリゼーションの
退っぴきならない進展だろう。サプライチェーンは最大効率を求めて全世界に散
らばり、平時には事なきを得るが、一朝難が発生すればたちまち一蓮托生となっ
てしまう。特に国外の現地生産が国内生産の2倍以上に拡大し、販売オーダーで
はおよそ1対4を上回る比率で海外販売が圧倒的多数を占めるようになっている。

 多様性に富んだ価値観に対応する必要性に対して、一元的な価値観と付和雷同
で皆と一緒を好む国民性の中からアイデアを生み出す困難を思う時、国内におけ
る価値観の再確認を徹底させてダイバーシティに対する柔軟性を養うことが欠か
せないことに気づく。果たして、トヨタを筆頭とする日本の製造業トップに、日
本の国内風土に顕在する多様な価値観を理解して、その適応を海外に広めようと
考える知恵者がどれだけ居るだろう?

 日本の37万平方キロメートルは決して狭くも小さくもなく、豊かで変化に富ん
だ自然に満ち満ちている。東京起点の鉄道網のような中央集権的な発想ではなく、
ガソリンさえ入っていれば何時でもどこへでも旅立つことが出来る。クルマの持
つ可能性の原点だが、脱クラスター/パーソナルモビリティの価値に改めて気が
ついた今回は、世界のガラパゴス最右翼と言えるドイツアウトバーン的価値観の
とは真逆の、パワー/スピードに頼らない最適解を求める走りのパフォーマンス
を再考する好機と言えそうだ。

●私が豊田章男氏に違和感を抱き続ける理由

 トヨタ自動車の豊田章男社長は、事あるごとにトヨタの原点としてTPS(ト
ヨタ生産方式)を挙げ、原価低減こそが本来追及されるべき姿勢だと繰り返して
いる。要は、「今まで通り」に徹すれば事なきを得るという考え方のようだが、
果してそうだろうか。

 実は、私は豊田章男社長がトップ就任を控えたタイミングで口にしたことに密
かな期待を持っていた。1000万台のグローバル販売に迫り、ゼネラルモータース
を抜いて販売世界一を実現した2007年の現実を踏まえて、700万台程度の生産量
で同レベルの収益を上げられる企業を目指す……そんなことを語った記憶がある。
損益分岐点をそこまで下げてなお、伸び代がある。

 コストダウンよりもバリューアップ。ブランド価値を高めて、高くても喜んで
買ってもらえる商品創り。それこそが少子高齢化という現実に照らしても納得が
行く答えだし、将来の新興国勢力とバッティングしない境地に至る最善策だろう。
創業家の三代目がそこまで覚悟を決めていたとしたら見込みがある……。

 期待した口からもたらされた第一声を聞いて膝が折れた。就任に先立つ前年暮
れか新年早々だったか。懇親の席で「料理には、先味、中味、後味があります…
…」おいおい、それって成瀬弘さんの十八番(おはこ)じゃないの。80スープラ
登場(1993年)の際に紹介されたトップガン(マスタードライバー)のリーダー
格は、得意の料理の腕前に沿った独特の表現を用いる人だったが、彼を師と仰ぐ
創業家社長がその見習工上がりの職人ドライバーの言葉を丸のまんま弄した。

 豊田章男社長と成瀬弘の出会いは、豊田社長が米国赴任から帰国した2002年の
副社長時代。成瀬の創業家御曹司を歯牙にも掛けない言葉に弟子入りを申し出た
のが師事の始まりとされる。爾来成瀬語録に傾倒したようだが、成瀬弘が2010年
6月23日にニュルブルクリンク北コース近郊の公道上でLFAニュルパッケージ
のテストドライブ中に、同じくテスト走行中のBMWと正面衝突して即死。享年
67だった。

 私は、急遽通夜が営まれた刈谷(だったか)の催事場に赴き、ぎりぎりのタイ
ミングで”お顔”を垣間見た。率直に言って別人であり、そのことが事故の凄惨
さを思わせた。その場で豊田社長と目を合わせる瞬間もあったが、早々に辞した。
翌月、参会した者に『技術者の一日』という恒例の社内イベントがあり、そこで
追悼のトークセッションがあるのでよかったら……という案内を貰った。現地に
飛んで、公開の場とは別人のワンマン経営者の素顔を見て、ある種納得した。

 振り返れば、豊田章男氏ウォッチも長い。接触機会ということでは遥かに多い
人もあろうが、独自視点で観察している者はそう多くはないはずだ。前述の懇親
会での第一声に始まり、師の通夜と追悼トークセッション、翌年の国際自動車シ
ョー発見参(デトロイトNAIAS)……etc。その間得た印象を一言で言うと「彼に
は自分の言葉がない」。

  料理は先味……に始まり、クルマは道が創る、ニュル礼賛に、止めは2016年の
デトロイトNAIASにおけるフォードプレスカンファレンスでマーク・フィールズC
EO(当時)が世界の自動車業界の先頭を切って「(我々は)単なる自動車会社(AUTO 
COMPANY)から(AUTO &)モビリティカンパニーにトランスフォーム(変革)します」
と宣言したまんまのパクリ。不思議なことに、翌2017年M.フィールズ氏は業績不
振の責任を追わされて退任。フォードは日本市場から撤退するという電撃的な決
断を下し、今では影も形もなくなっている。

  すると、豊田章男社長はほとぼりの冷めた2018年の初頭に「我々は自動車会社
からモビリティカンパニーを目指す」という聞き覚えのあるセリフを口にする挙
にでた。CASEもその一語に加えていいかもしれない。これは2015年9月のVWデ
ィーゼルゲート(排ガス不正)を受けて翌年のパリショーでダイムラーAGのD.
ツェッチェCEOが初めて提示した概念(CONNECTED.AUTONOMOUSE.
SHARED&SERVICES.ELECTRIC)だが、ツェッチェ氏もダイムラーAGのCEO
から退いている。

 キーマンが悉く消え去って行き、残された言葉が心置きなく使える環境が残さ
れて行く。強運と言えばそうだが、その徹底ぶりは不気味でさえある。2017年の
デトロイトNAIASでは、前年の米国大統領選でよもやの当選を果たしたD.トラン
プ大統領の就任を前にした"指先介入=twitterでの発言"に過剰反応した豊田社
長が、カムリのワールドプレミアの際に向う5年間で100億ドル(約1兆円)規模の
対米投資を行なうというリップサービスを行なっている。(いったいどこにそん
な大金が?)トヨタの内部留保の大きさに溜め息をついたものだが、後にGPIFの
資金が用いられたかの言説を聞いて複雑な思いをした。

●歴史が繰り返すとすれば、スマートシティ構想は大地震で霧消する!?

「2008年のリーマンショックの際には、『出血をとめるため』に(開発を含めた)
すべてを止め、必要な筋肉を落してしまった」と豊田社長は振り返る。その反省
から無駄の排除を徹底するなどして収益体質を磨いてきたのが昨今のトヨタの歴
史であるという。

  ことは生産体制だけではなく、次世代技術への投資にもあてはまる。「止めて
はいけないのは未来に対する開発費で、これは普遍的であるべきだし、そのため
の資金は欠かせない。我々の手元には8兆円の資金がある。アップルの20兆円に
比べれば少ないが、スマートシティに対する投資や試験研究費で変えるところは
ない」豊田社長の番頭役でもある小林耕士執行役員は言い切り、損益分岐点はリ
ーマン当時と比べて明らかに良くなっているという。

「100年に一度」という時代の転換点を初めて口にしたのは4年前のフォードプレ
カンにおけるM.フィールズ氏だったと思うが、トヨタは最近になってスマートシ
ティに対する開発に意欲を燃やすようになっている。1月のCESでのウーブンシテ
ィ構想に傾倒を深めているようだが、昨今のCOVID-19パンデミックによって、都
市化という密集構造自体に疑問符がつくようになった現実に照らすと、テックカ
ンパニー発のスマートシティ構想に飛びついた反省が表面化するタイミングは案
外早まるかもしれない。クルマ本来の機能に立ち返ると、集中管理型の都市構造
よりも開放的な地方分散型構造のほうが未来的となるのではないだろうか。

  仲間作りと称したアライアンスの取り組みにも疑問が残る。豊田社長の発言で
気になるのは以下のものだ。「私たちの使命は幸せを量産すること。V字回復が
もてはやされる傾向があるが、雇用やものつくりを犠牲にし、やめることで個社
の業績を回復させることが評価されるのは違うと思う」日本経済の屋台骨である
自動車産業における唯一の勝ち組であるという自負が言わせているようだが、明
かにこれはNRP(日産リバイバルプラン)で歴史に残る業績を上げた日産の救
世主C.ゴーン氏の存在を念頭に置いたものと断定出来る。

 1歳年上のゴーン氏がCOOとして日本にやって来た時には、豊田社長はまだ
無名の部課長クラス。同世代として抱いたコンプレックスの感情に加えて、創業
家という矜持が劣情に輪を掛けたとして不思議はない。師と仰いだマスタードラ
イバーの死後、オリジナルのような口ぶりでクルマや道を語り、ライバルの失墜
後に巧みに100年に一度やモビリティカンパニーを目指すといった論を展開する。

  陶器質感をキャッチフレーズに登場した3代目プリウス(ZVW30)のフリートに
使われやすいデザインを改める意図で開発された4代目(ZVW40)を「かっこ悪い」
と当事者責任を忘れたように悪しざまに言う一方で、成瀬弘との因縁を感じさせ
るBMWとの共同開発で実現した90スープラのアンバランスな造形については異
論を差し挟まない。

 2014年のデトロイトNAIASでワールドプレミアされたFT-1を生で見た者と
しては、あのスケール感豊かなスタイリングを2座オープンスポーツのBMW・
Z4との共通プラットフォームに落とし込むという商品企画に無理を感じるし、
パッケージングを保った上で非フリートユーズにシフトしたプリウスのチャレン
ジの高潔さに比べれば妥協の末の駄作とさえ言えるスープラに肩入れする気が知
れない。成瀬弘の事故死がBMWとのしがらみを生んだという妄想さえ抱かせる
スポーツカーの基本たるプロポーションの悪さを論じない姿勢に違和感を抱くの
は私だけだろうか? 率直に言って、開発統括の多田哲哉CEのクルマ作りをス
マホ作りのノリでやっつける姿勢には失望を禁じ得ない。

 徐々に綻びが目立ち始めたトヨタが、難しい局面を迎えるのは案外早いかもし
れない。日産を中心とするアライアンスの崩壊が、対岸の火事ではなかったこと
を日本人が知るのはCOVID-19パンデミック禍の最中となる可能性を否定すること
が出来ないでいる。

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