エンバーゴが解けた翌日2015年2月1日に
まぐまぐ!メルマガ 伏木悦郎の『クルマの心』に配信した号外を添付します。
NDロードスターの初試乗ということでWEBを中心に情報発信が喧しいですが、今回の試乗は正式発売の半年前(2014年12月16~19日)に行なわれたPre-productionモデルによるもの。同じ仕様(右ハンドル)をスペイン・バルセロナに送って国際試乗会を開いた(先週)関係で、国内における情報発信が制限されるという、奇妙な話になってしまいました。
基本スペックは変更されないと思いますが、セットアップはfixとはいえないと思います。近々プロトタイプの試乗会が予定されているとのことなので、試乗第一報というスタンスが正しいとでしょう。
私のアプローチは、プロトタイプ、正式量産ラインオフモデルとまだ段階を追うレベルという認識です。他者(社)が何をどう書いているかは一切確認していません。すでに専門仕向けにはdriver誌
(2月20日発売の付録)に寄稿済みで、このメルマガ記事以外にも長尺の読み物を現在執筆中。
こちらは本blog、carview !に掲載する予定です。乞ご期待ということで!!
取り急ぎこちらをご一読下さい。
伏木悦郎
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
■伏木悦郎のメルマガ 『クルマの心』
2015.2.1 号外
透明感……初めて第4世代となるNDロードスターのステアリングを握り、30分の持ち時間をテスト車と対話して得た感覚を端的に表現するのは? 自問して探し当てた言葉に納得している。
試乗日は2014年12月19日午後、快晴。試乗の舞台は伊豆サイクルスポーツセンター・ロードコースである。
●すでに見馴れた姿形、伊豆の現場には不思議な空気感が充満
すでに目に馴染んだスタイリング。正式な初見は2014年9月4日の舞浜アンフィシアターにおける『マツダロードスターTHANKS DAY in JAPAN』だったが、お盆休み直前にyoutubeに偽装シートを張り巡らせたテスト車のスクープ画像(映像)で大方の察しがついていた。
それ以前に、4月16日のNYIAS(ニューヨーク国際自動車ショー)のプレスデイに出展された『SKYACTIV CHASSIS NEXT GEN MX-5』(次期ロードスター(ND)のベアシャシー)を目の当たりにして、おおよそのスタイリング、スケール、クルマのコンセプトは掴めていた。
9月4日以降、全国各地で催されたオーナーミーティングイベントにも展示されたNDの実車ですっかり目に馴染んでいたはずだが、実際にステアリングを握る瞬間は特別だ。
緊張というのとも違うし、前のめりに勢い込むといのとも違う。すでに何度か収まったことのあるドライバーズシートへのアクセスは、意識してオールクリアあらためて仕切り直しというまっさらな気持ちで臨むことにした。
エンジン始動。今やあたりまえになったプッシュボタン式だが、これは改めたほうがいいのではないか。いまさら省かれたキーシリンダーを復活しろといわれてもできない相談というかもしれないが、スポーツカーにとってセレモニーの要素は必要だ。
NAロードスターがこだわった指先一本で動かすドアハンドルのように、『スカせる』アイテムが欲しい。プロポーション、面と線の関係、オーバーハングの切り詰めとランプ類の摺り合わせ……アクセントとなるフロントのショートオーバーハングに、その後ろに流れるウェーヴィなコークボトルラインの基点となるスラント角を与え、これしかないというスペースにLEDライトを押し込んでイメージの伝承と独自の個性を共存させた。
●LWS(ライトウェイトスポーツ)の21世紀的解釈。あと一歩で完璧だと思う!
デザインは端的に素敵だ。全長3915mm、全幅1730mm、全高1235mm、ホイールベース2315mm。史上最短で、NCより80mm、NBとは40mm、初代NA比でも20mm縮小された。一方でホイールベースはNC比でわずか15mmの短縮で、NA/NBに対しては50㎜の拡大延長となっている。
サイズアップは幅方向でNA/NB比で+55mm/50mm、NCに対しても10mmの拡幅となっている。前後端の絞り込みは急で、特にリアコーナーの3次曲面構成には明確なダウンサイジングによる軽量化の意図が読み取れる。
プランビューで見る専有面積の削減はクルマの商品価値の最右翼であるスタイリングの魅力に悪影響を及ぼしかねないが、プロポーションの精査、脳科学的な錯覚の要素を取り入れたトリックアートの手法とも言うべきレイアウトの妙でバランスを保つ。
『身長160cmのスーパーモデル』という山本修弘開発主査が辿り着いた難しいデザインコンセプトに、ショートオーバーハング/ロングノーズ/スモールキャビン+クラシカルなコークボトルラインで応える。中山雅チーフデザイナーのセンスと力量、そのオリジナルプランを再現するハードウエア開発と生産技術の成果は、工芸品としての視点からも高く評価されていい。
小さいのに存在感がある。遠目には縦横比/プロポーションの関係で堂々たる佇まいに見える。しかし、さあ乗りますか……と身を寄せて行くと、まるでズームイン映像を見ているように実寸のリアリティが迫ってくる。
類まれな吸引力とブランドアイコンに相応しいオーラ。それらはボディスキンの内に収まる高密度なメカニズム/コンポーネントが醸し出す凝縮感によってもたらされていると思うのだが、ここまでやったら”遊び”のひとつも欲しい。
NAがやっていた一点豪華主義的なこだわり。あれは、多くの部品を”あり合わせ”で調達しなければならなかった裏返しでもあったのだが、やんちゃを理解してこその大人のスポーツカー。理路整然の真面目もいいけど、いい大人が粋がってスカせるキラリと光る小物、ひとつぐらい欲しいじゃない。
NDロードスターはもはやテクニックだけではなくてセンスを磨く段階。人間やったことのないものは分からない。経験値の重要性に思いが至っていないところが惜しまれる。
●SAパッケージ? すべてはドライビングポジションのために
エンジンはSKYACTIV-G 1.5L 直噴ガソリン。最高出力90kw(131ps)/7,000rpm、最大トルク150Nm(15.3kgf-m)/4,800rpm。SKYACTIV-MT 6速マニュアルが組み合わされる。始動時に特段の感慨はない。静かに目覚め、アイドリングへの移行もスムーズだ。
そのままアクセルを踏み込まずにクラッチを合わせてみる。何も起こらない。ストールしない程度スロットルを開けながら軽~く流してみる。ボディはかっちりしているが、剛性感がビンビン伝わるということもなく、その意味ではことさら意識することはない。
ゆっくり歩くようなペースのままステアリングを大きく左右に切ってみる。ウェービングの反応はスムーズで軽い。操舵力は思いのほか軽くどこかに引っ掛かりを感じるフリクションも見当たらない。
触感レベルの第一印象ではステアリングホイールの革巻きはNG。これはハンドリング評価にも繋がるが、乾いた硬質なタッチはラック直動式電動パワーステアリングの軽さと精度をミクロの感覚世界で調整する機能性に問題を残す。レザー表面の張りを緩めるか、厚みを増して柔らかくするか、ウェットな表皮材質を選んで、人間誰しも共有する位相遅れへの対応に留意すべきだ。
先日マツダの横浜研究所で行なわれたCX-5/アテンザの試乗会で手にしたCX-5に新規採用されたレザー。手の平にしっとりなじみ操安官能評価を大幅に引き上げていた。あれはプレミアム志向を目指す全マツダ車のスタンダードとして、よりプレミアムなモデルについてはさらに上質な素材を選ぶべきと思えるもの。
この辺は車両開発本部で操安を仕切る虫谷泰典さんの領域だが、現時点でNDロードスターに欠ける”評価の対象となる自我”の創生の糸口になるポイントとして押さえておきたい。
少しペースを上げながら周回を始めると、不思議な感覚に包まれた。正対する前方視界が狭く感じられるのだ。全幅はたしか1730mm。だが、何と言うか「ナロー」なのだ。どうやら着座位置が関係してるようだ。
NDは、いわゆるカップルディスタンスを狭め、外側の肩口に余裕が出る位置でシート/ステアリング/ABCペダルをレイアウトしている。限られた全長/ホイールベースの中でエンジンの完全フロントミッドシップ配置を遂行し、それに伴うシフターの後退、シートポジションの後方移動を踏まえて、コンパクトなディメンションに余裕のある居住空間を生み出し、ドライビングの基本となるインターフェイスの最適化を追求している。
そこには人が乗ったときにスタイリッシュに見えるというデザイン的な狙いも含まれているのだが、投入されたエネルギーは半端ではない。パワートレインやシャシーのダウンサイジングやコンパクト化は軽量化のためだけではなく、限られたスペースの中で最大/最適の居住空間を目指す。かつてホンダがMan-maximum/Mecha-minimumというMM思想を標榜したことがあったが、発想は同じ。エンジンを小型軽量な1.5Lとしたのも、ベースはそこに始まる。
NYIASで「!」と来たコンパクトなベルハウジングもそう。フロアトンネルを狭小にしてドライビングポジションを得る。ツルンとした形状はこのためだったのかと、ここにきて腑に落ちた。シャシーやアクスルにも徹底されたダウンサイジングは、MMならぬSA(スカイアクティブ)パッケージとでも呼ぶべき因果関係にあるのだった。
●破綻なくまとまっている、まるで運転していることすら忘れるかのように……
ドライバーズシートでクルマが小さく感じられる。ネガティブな意味ではなくて、コンパクトなLWSらしい手の内に収まる感覚。はっきりした稜線として視野に入るフェンダーの効果もあってノーズの長さを意識することも錯覚を強める一因か。
これまでモーターショー取材では気にならなかったフロア形状。キャタライザーの逃げが右に設けられているあたりに左ハンドル優位設計かなという思いが過るが、これはまあ歴代共通だ。
先ほどステアリングホイールの革巻きに触れたが、シフターにも注文がある。シフトフィールの検討から割り出されたと思えるシフトノブ。グリップの大きさ、慣性質量ともに悪くはないが、3本の粗いステッチは要再考だろう。ステアリングタッチとの統一を実現してから個性を追求しても遅くはない。
ハンドリングは率直に言って捉えどころのない印象だ。誤解のないよう予め断っておくと、前後バランスに乱れが少なく、ヨーの発生もスムーズ。ロールの進行も穏やかで素直なステアリング特性と評価できる。
ただ、テストフィールドの伊豆サイクルスポーツセンターロードコースは本来自転車競技用で、非常に粒子の細かい滑らかで摩擦抵抗係数μの大きな特殊舗装が敷かれている。試乗ルールとしてはESC解除はNGで、タイヤマークが付くような攻めた走りは御法度だ。限界領域で試したい前後バランスや荷重変化による過渡特性のチェックには向かないし、乗り心地についても厳密には評価できないというのが正しい。
クルマの走りは詰まるところタイヤの摩擦円の中での出来事だ。リアルに確認できない状況であれこれ断定的に語るのはプロフェッショナルな態度とは言えない。思う存分振り回したい誘惑にかられながら、自制したというのが正直なところなのだ。
誤解を恐れずに言えば、LWSを含むFRスポーツのすべてはドリフトコントロールにある。ヴィークルダイナミクスの話になると必ず登場するのが、前後荷重バランスは50対50が理想的であるとか、ヨー慣性モーメントの最小化であるとか物理科学の云々かんぬんの話である。
メカニズムに人間が従うパッシブモビリティなら分かるし、googleが推進する全自動操縦車に未来を託してもいいと考える新しいモノ好きの立場を取るというなら構わないが、僕はあくまでも自分でステアリングを握り、アクセルとブレーキでスピードをコントロールして自由自在に走り回れるクルマにこだわりたい。
ミスもすれば事故を起こす可能性もある。なるべく失敗しないよう努力はするが、あらゆることに限界があることを知っている。限界を見た上で、知った上で、体感した上で対処する方法を考える。限界が近づいたら遠ざかるのも手だし、敢えてそこに飛び込んでバランスの筋道を見出しそれを楽しむのもありだろう。
クルマは、人間の身体機能の拡大装置であり、まさにヒトそのものがモビリティという無上の価値を手に入れるtoolである。機能の拡大は時間軸で測られ、スピードが価値をはかる指標になる。その限界は無限大ではなく、走行環境・インフラ・社会ルールによって規制されている。
理想は無制限だが、現実は長く語られてきたおとぎ話のような評論よりずっと低い速度レンジでいかに楽しむか。今どきドイツのアウトバーンを理想郷の如く吹聴するのは恥知らずのペテン師か現実と未来から目を背ける嘘つきだ。
ドイツの道路交通環境は依然として蜜の甘さを漂わせているが、グローバルな視点に照らせば世界でも異例な価値観に固執するガラパゴスに過ぎない。時間をお金で買う発想がまだ有効なのが原因かもしれないが、70億の人類が揃って300km/hオーバーのスピードになびける余力はこの地球上に存在しない。いい加減に分かろうぜ。
●この透明感に接して甦った26年前の記憶
LWSの価値は、マツダが25年にわたって守り続けてきたロードスター(MX-5)の価値は、次の25年に向けて開発された(はずの)NDロードスターの価値は、100年以上の長きに渡って歓びをもたらし続けてくれた内燃機関で走るクルマの魅力を、慣れ親しんだ形のままで登場してくれたことに尽きる。
エポックメーカーにはそれに相応しい処遇がなされて当然だろう。黴の映えた従来通りの論調で「上を向いて歩いている」場合ではない。ドリフトは限界を超えた世界の出来事だ。タテ/ヨコのグリップを超えてもなおタイヤの摩擦円を使ってクルマをコントロール下に置く。
そのプロセスを一度身体の中に収めれば、スピードの絶対値に頼らない走りの魅力、価値の創造に思いが至る。やらずに(できずに)四の五の言う自称評論家は星の数だが、彼らの大半は自前の意見を述べないメーカーセールスプロモーションのスピーカーに過ぎない。自力でキャリアアップして自分の言葉で語れ。
思い出すのは1989年の初夏の候。その年2月のシカゴショーに突如姿を現したユーノスロードスター(NA6CE)の発表前試乗会が今はなき谷田部のJARIで開催された。アマチュアレーサーからフリーランスのライター稼業に転じて12年目、ひとかどの経験を積み、すでにクルマはFRにかぎる、ドリフトがすべてと公言していた37歳の時である。
当然一家言あって、ひとしきり試乗した後懇意の立花啓毅実験部次長(当時)に噛みついた。「このセットアップしかなかったんですか?」生意気を画に描いたような一言だが、相手もプロ。こちらの意気に感じて「ちょっとこっちにこい」便所の裏……ではなくて、人の群れから外れた木陰でノートとペンを片手にレクチャーしてくれた。
ライトウエイトスポーツは接地感を出すのが難しい。オープンボディは剛性の確保が容易ではなく、当時の技術力(とコストに縛られた安価設定のコンセプト)では限界が知れている。タイヤはBSの185/60R14が標準だがそれでも車体に対してグリップが勝ち気味で、特注仕立てで接地面が狭められていた。
当時イメージしていた理想の走りは、しっかり位置決めされたリアタイヤを軸にロールを抑えながら、制動/駆動のメリハリの効いた前後荷重移動とともにステアリングに豊かなインフォメーションを感じながら想定ラインに乗せて行く。まあ当時だから拙いレベルは呑み込むとして、血気の余り「そうならないのは何故?」食ってかかった訳である。
●マツダのスポーツカー作りはきちんと伝承されたのだろうか?
クルマはライフステージ(生活環)商品であり、世代感覚によってニーズは変化する。体力や経験値によっても異なるが、生涯を通じてスポーツカーとともに暮らせるのはよほどの幸運の持主に限られるだろう。僕の場合、たまたまモーターレーシングに巡り合い、その縁から自動車ジャーナリズムに世界に踏み込んだ。
60も過ぎて、さすがに往時の勢いは失せたが、NC6CEのセットアップについて疑問を持ち、真摯に教えを請うたことが今に繋がっている。確かエキスパートの解説はダンパーの減衰特性とロールとボディ剛性の関係に及んだのではないかと思う。
LWSはサスを固めるとボディの剛性不足が際立ってしまうので、ロールのスピードと深さでバランスを取る……確かそんな話をグラフの図解入りで聞いた。それが後に「ひらり感」という形容で語られたオリジナルのドライビングスタイル。今でこそボディ剛性はあたりまえの概念だが、試乗インプレッションに登場するのはCADやCAEが導入されて注目されるようになった1980年代後半からの話である。
あの頃の血気は今の僕にはない。こちらの下降線とは反対に技術の蓄積によるレベルアップは決定的で、明らかにここは問題と言える不都合をNDロードスターに見出すことは難しくなっている。
僕とマツダの因縁は浅からずで、1978年9月26歳で未知のライター稼業に飛び込んだ年がSA22CサバンナRX-7がデビューしたタイミング。レーサー上りということで筑波やJARIに毎週のように通うことになり、ナーバスなワットリンクサスの洗礼を受け、その後はJARIでの12時間耐久高速チャレンジやIMSA仕様GT-U試乗、ルマン用727C、実はルマン24時間における初優勝マシンのグッドリッチタイヤのラジアルタイヤを履いたローラT616(C2クラス)など多数のテストリポートを手掛けている。
SA22Cには心底手を焼いた。それまで文章など一行も書いたことのない若造が少し走れるというだけで職を得て、ここまできた。いろんな意味で記憶が重なるが、そこからずっと付かず離れずの道のりを歩んできた人がいる。彼の存在を知ったのはFC3SサバンナRX-7のトーコントロールハブのエンジニアとして紹介されてから。
もともとトラックのシャシーが専門のエンジニアで、数奇な縁によってマツダのスポーツカー開発はトラック部門の領域となり、SA22C以降一貫してスポーツカー開発に従事した。貴島孝雄さん(現山口東京理科大教授)と初めて言葉を交わしたのはいつだったか。
まさかSA22Cから間接的に関係が築かれていたとは思わなかったが、NA8Cの導入の際に物議を醸した『反対声明(ロードスターに1.8Lを搭載するな)』からNB、NCを通じ、定年退職なさった2009年以降の今もなお懇意にさせていただいている。
これまでの立場が違えば、互いに関心を寄せる『動的感性工学』に関する意見でも必ずしも一致しない。さすがに長く厚いキャリアにはリスペクトの念を抱かずには居れないが、リアサスのトーコントロールには終始同意しかねたし、NA8C以後3代の変遷にも異論があった。
さすがに今回のNDの難産ぶりを見ていると、継続に心血を注いだ貴島元主査の時代の変化への対応力を評価しない訳には行かないが、25年の歴史によって固められたイメージトータルで見るとやはり貴重な財産ということになりそうだ。
●スタイリング、パッケージング、エンジニアリングに誤りはない。プライドを示せ!
「守るために変える」山本修弘主査は、実に巧みな言葉遣いでブランドの伝承と新たなる一歩に向けた改革に道筋をつけた。公開されたディメンションに、開発目標値として明示された1000kgの車両重量、フロントダブルウィッシュボーン/リアマルチリンク式サスペンション、ラックアンドピニオン電動式パワーステアリング、195/50R16タイヤ。
凝縮されたスタイリングは、ドアとリアフェンダーにスチールを配し、パンパーを2mmを切る肉厚の樹脂とした他はアルミで覆われる。アルミ比率はNCの4%から9~10%に拡大、590N/mm2の高張力鋼板使用比率を40%に高めることでホワイトボディで40kgの軽量化を実現した。
パワーウエイトレシオは7.63kg/ps。山本主査以下開発陣がしきりとリミットの7500rpmまできっちり試してと声を上げるだけあって、全開加速を試みた際の迫力、サウンド、スピードの乗りは納得もの。使い切れる雰囲気が先に立つのはボディ/シャシーの剛性感と各部の組み付け加工精度の恩恵か。
活気に満ちた全開加速モードと好対照を成すパーシャル領域の穏やかな乗り味は、キャラクターを敢えて押さえ込んだようなナチュラル系。ステアリングの手応えよりも精度と軽さのバランスに目を向けたようなセットアップ、日常的な使い勝手にも対応する乗り心地の洗練が、透明感と評したくなった尖りのなさや際立つピークを抑えた味わいに結びついている。
回した時に活気づいて、普段はさりげなく。メリハリのある仕上がりといえばそうだが、低中速域でのピックアップ、アベレージスピードの高い欧米のドライビングスタイルへの対応を考えると頼りない。MNAO(マツダ・ノースアメリカン・オペレーションズ)のケルビン・ヒライシが危惧した理由が分かる日本的な洗練であり、アメリカ人から見た解り難さ。
操作をしていることすら忘れる、歩いたり走ったりするような運転感覚。マツダのスタッフの誰かが開発陣が目指した走りの方向性を教えてくれた。個性的な走りのキャラクターの創造はオーナーとなる顧客に委ね、FRならではの素材性、LWSだからこその手の内に収まる走りのバランスの提供に徹する。
真面目で正しい感じがするが、NDロードスターはマツダのブランドアイコン。クルマ好きの心の琴線に触れる”俺たちはこれ!”という共有できるsomethingが欲しい。
スポーツカーに正しさを求めるのはちょっとリスキー。諸々承知の上で、それでも得がたい自由な存在として大事にしたい。そのくらい緩くても構わないのではないだろうか。
今回の試乗車は、試作段階のプリプロダクションモデル。近い将来もうワンステップ上がったプロトタイプのテスト機会を用意しているとか。まだ正式発売まで5ヶ月を残している。セットアップのfixまでにはまだまだ幅がある。
僕がパワートレイン開発中枢に注文をつけるとするなら、1.5Lは9,000rpm回して150ps、15km/Lを確保。2Lは同じく150psで低中速トルクを太らせて、SKYACTIV-Gならではのダウンスピーディングで20km/L超をターゲットとしたい。排気量を上下のヒエラルキーで見るのではなく、キャラクターの水平分布と捉えることができたら合格だ。
仕向け地対応などと眠いことを言わないで、テクノロジーの真価で世に問うて欲しい。NDロードスターは再び世界を驚かせる資質を備えた誇るべき日本の一台。きちんと育て上げないでどうするというのだ。
----------------------------------------
■ご感想・リクエスト
メールアドレス fushikietsuro@gmail.com
■twitter :https://twitter.com/fushikietsuro
■facebook https://www.facebook.com/etsuro.fushiki
■driving journal official blog http://driving-journal.blogspot.jp/
■carview special blog http://minkara.carview.co.jp/userid/286692