年が明けてもう40日余りが過ぎた。元日から気合を入れて本ブログを書き連ねるつもりは、残念な状態になっている。まあ、思い立ったが吉日という。今日は『建国記念の日』、ここからStart overも悪くない。
年初は例年通りNAIAS(北米国際自動車ショー)が仕事初めとなった。ニューヨーク・マンハッタンでストップオーバーとなったのは、DELTA on lineで購入した格安航空券の条件だったからだが、年明けにNYCの空気を吸うのはこの10年間で恒例化させた決まりごと。貧乏でも知恵を絞ればなんとかなる。旅は幾つになっても人を活性化させる何よりの薬だ。
今年前半のハイライトは、何といってもトヨタとスバルのコラボによって生まれた86とBRZ(それに北米用サイオンブランドのFR-S)だろう。
トヨタの"クルマの王道はスポーツカーにあり。そこから逃げていたら、若者のクルマ離れなど止められるはずもない"という経営判断からうまれたこの企画、当初のスバルのスバルの水平対抗4気筒エンジンとアルテッツァ用のアイシンAI製トランスミッション(T/M)を組み合わせて、ポンッと作るというお手軽、ローコストを前提に進められたという。
ところが、試作を重ねる中で、なかなか当初求めた性能にたどり着かない。とくにスポーツカーの生命線とも言える走りの楽しさ、ハンドリングを含む官能領域の未達状態は深刻で、2010年初頭には、トヨタの担当チーフエンジニアはクビを覚悟したというほどだった。
結果的にエンジンは当初のスバルの新世代ボクサーNA、FB型ではなく、ボア×ストローク=86×86㎜の新設計ヘッド/ブロックに、リーマンショックの余波でトヨタ本体のクルマにも未済用だった新世代のD4-S(ダブルインジェクションシステム)を先行採用させるという、名実共にの新開発ユニットが与えられた。
マニュアルT/Mもアルテッツァ用では使い物にならず、結果的に85%は新開発という専用設計。アイシンAWの手になるオートマチックT/Mも、欧州勢の展開によって優位性が語られるようになったDCT(ダブルクラッチトランスミッション)よりも、トータル性能では明らかに上という結果に仕上がったという。軽く、制御が細やかで、スポーツ性も高い。
その現実については2月20日発売のdriver4月号の短期集中連載インタビュー企画で明らかになっている(商品企画、走りの作り込みについては1月発売号で既報)ので、是非ご覧になってください。
ともすると、トヨタ86とスバルBRZどっちがいい? みたいな、従来型の二項対立の勝ち負け論議の展開を試みる雑誌メディア、ライター連中がほとんどですが、それらは基本的に意味がない。
事実誤認も多く、開発/生産が富士重工スバルなのだから、スバルのオリジナル……みたいなトンチンカンを、まことしやかに語る飼い犬や判官贔屓の輩も多いが、この場合は企画がすべて。企画デザインがトヨタ、開発はトヨタとスバル共同、生産はスバルの太田工場(従来の軽自動車用、現在は2月中に終了するサンバーの最終生産が稼働中)が行う。
作っているのは間違いなくスバルだが、米国ではトヨバルの名が流通し、86BRZFR-S(米国ではサイオンSCIONブランドからFR-Sの名で発売される)と一括りで語られることもあるこの新世代のFRスポーツカーの原点は、トヨタの『王道回帰路線』をベースに開発陣頭指揮の任務を課せられた多田哲哉CEのプロデュース力に求められなければならない。
その底流に流れているのは、トヨタが21世紀のクルマ作りとして喫緊の課題として掲げている『脱自前主義』の発想がある。アップルのiPhoneがそうであるように、デザインと機能に関するアイデアはアップルだが、使われる材料、部品は適材適所。生産拠点も米国本国にあるわけではない。だからといって、iPhoneを台湾製だとか中国製とか言う人は一人もいない。
クルマ作りの潮流は、今急速にその方向に向かっている。脱自前主義とすることで、こういうクルマを作りたいというアイデアをよりスムーズに実現させることができる。重要なのは何を作りたいかというイメージで、その具体化にはフリーハンドを与えた方が顧客満足度の高い良品になる。東京モーターショーの裏側で電光石火の提携が発表されたトヨタとBMWの関係は、今なおトヨタ社内に残る古い考え方を改めさせるショック療法だった。
そんなこんなを含めて、トヨタ86、スバルBRZ、サイオンFR-Sは、今後の日本の自動車産業がサバイバルできるかどうかを占う重要な一台ということができる。そういう視点を持たずに、従来型のアナザワールドのハンドリング評価で世間を煙に巻くだけの戯言には、目を細めて薄笑いをお見舞いした方がいい。端的に言って、この新スポーツカーのすべてはドリフトに尽きるのだが、これは追々じっくりと述べて行くことにしよう。
何が重要で、それを保持するためにはどうしなければならないのか。本質を見つめる努力は常に必要だ。86に代表される新スポーツカーで最大限に評価されるべきはその素材性である。天の配材によって低重心で低いプロポーションを可能にする水平対向エンジンが得られ、世界のスポーツカーに取って厳しいハードルとなった歩行者保護を求める安全基準のクリアに成功した。
先のNAIASでベールを脱いだメルセデスベンツの無様なまでのプロポーションをみても分かるように、今後FRレイアウトでスタイリッシュなプロポーションを求めようとするなら、水平対向かRE(ロータリーエンジン)しかない。多田CEはそう見切っているように、スポーツカーの命でもあるスタイリングに顧客の満足を得ようとするなら、もはやMRかRRにシフトせざるを得ない。フェラーリがどのような解でFRスポーツを貫き通せるかが、ひとつの指標になるのではないだろうか。
多くの懐疑の目を意識しながらこれを書いている。また何か言ってるよ……同業の中には快く思っていない向きも多いと思う。意見の多様性に馴染まず、意見を闘わす習慣をもたず、寄らば大樹や付和雷同による”皆で渡れば怖くない”があたりまえになっているこの国では、自信のある持論を大勢に与しないで堂々と展開する者に冷たい。
それが正しいか否かの検討以前に、異論はとりあえず排除して、秩序の安定を優先する癖がある。これだけ多くの個性が存在すれば意見は多様なのが当然。意見を堂々と主張し、互いに耳を貸して議論を深めて行けばお互いの利益になるのに、意見を戦わせる=口論になり、遺恨、私怨だけが残る子供じみたいさかいになってしまう。
思い出されるのが1994年の標題にもある企画。driverに掲載され、業界にセンセーションを巻き起こした伝説の『反対声明』。これは、スクープを担当する編集者が「ユーノス・ロードスター(当時)に1.8ℓエンジンを乗せる計画があります。社内にも反対する意見があるようですが、計画は実行に移されるようです。これについてひとつ書けませんか?」。それに応えたのがユーノス・ロードスターに1.8ℓを搭載するな!というサブタイトルの付いた反対声明だった。
添付したのはコピーを画像化したもので、鮮明度に欠けるかもしれないが読むことはできるはず。18年も昔の、まだ血気が先に立つ青い内容ですが、僕の論点が今なお一貫してそう振れていない証になるのではないでしょうか。
いろんな人がいますが、我々の弱みと強みはこういう印刷物などの”証拠”が残っていて、いざという時には「こういうのがあるけど?」とグゥの音も出なくなってしまう。時流に乗り、売れることに汲々として、儲けたが勝ちという??な人が、成功者として敬意の対象になる。目の前しか見ない人ばかりであることをいいことに、過去に頬っ被りをする。そういうのばかり見せつけられると心が折れそうになることもしばしばですが、泣き言をいっても始まりません。
ただ、今までどおりで行こうとしたら、間違いなく沈んでしまう。なんとなく一億総既得権集団といった様相を呈している。現状を変えようという意見がなかなか奔流にならないところを見ていると、そんなことを疑いたくもなります。僕がこうやって力み返るのは、苦境にあるがゆえだと思いますが、皆さんは本当のところはどうなのでしょう?
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