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2015年10月4日日曜日

まぐまぐ!で配信中の我がメルマガ『クルマの心(しん)』を振り返ってみたら・・・・

  この場合遠慮や配慮は無用だろう。すでに9月18日(日本時間19日未明)の不正発覚から2週間が経過。事態はアメリカのカリフォルニア州の片隅の出来事ではなく、世界的な大スキャンダルとして白日の下になっている。

  ドイツのフォルクスワーゲン(VW)によるディーゼルモデルの"Defeat Device"を用いた排ガス規制逃れの一件である。

  私は、EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)発の第一報に接した瞬間(これは深刻なスキャンダルに発展する)。直観的に見立て、しばらく遠のいていたここを含むいくつかのブログに書くことにした。

  話すと長くなるのでここでは端折るが、いろいろあって書くことに意欲を失いつつあり、長く仕事にも身が入らない日々が続いていた。

  商業メディアの既得権益を守ってこのまま逃げ切りを図ろうとする自動車専門メディアと、そこに群がる同業の人々とは相容れず、目に余る一部の者に対する批判的な立場を採ったことが村社会化したした人々のスクラムを強化させ、世界が狭くなる一方になった。

  そもそもはそんな奴がいるとは夢にも思わないところでスキャンダルに塗れ、SNSやblog、メールマガジンなどのパーソナルメディアで生きる道を模索したのだが、運営するスキルと魅せて読ませるテクニックの技量不足が重なって思うに任せない。

  なんて泣き言を書いている暇はないのだった。先日のIAAフランクフルトショーをはじめ原稿は溜まり滞っているのに、VWの不正問題の衝撃を覚えるあまり思考が混乱しほとんど消化していない。個人メディアのまぐまぐ!メルマガ『クルマの心』の発行にも支障を来してしまった。

  official siteともいえるDRIVING JOURNALでも数日前に書き出したのだが、事の重大さに筆が止まった。きちんと取材をして整理してからでも遅くない。グルグル回る思考の中で、過去のメルマガを振り返ってみると、9月12日付けの第157号に今回の事件を予見しているかのようなことを書いている。

  ここにその全文を転載するので、参考にしてほしい。続報は追って。



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伏木悦郎のメルマガ『クルマの心』
第157号  2015.9.12

 

●世紀末のLAの空は汚れていた

 今世紀に入って始めた習慣がふたつある。まず第一にウォーキング。現在の町田に住んで35年近く経ったが、最初の20年は近所に桜の名所となった川(恩田川)の存在も知らず、その両岸に町田市が(市民の健康を考えて?)遊歩道を整備していたことにも気がつかなかった。

 まあ80年代から世紀末にかけての30~40代は無我夢中の働き盛りであり、健康面でも特に不安を抱くこともなかった。忙しくて健康のために歩くなんて考えも及ばなかった。世紀の変わり目が40から50代への節目と重なった。

 喫煙を止めたのは1997年45歳の時。四半世紀の習慣を断つのに苦労したが、当時米国取材の比率が増し、喫煙環境が目に見えて厳しくなる状況を目の当たりにしたことが幸いした。バブル崩壊までの1980年代、まだ柔軟性が残っている30代に欧州(とりわけドイツ)メーカーのプレスツアーを数多く経験し、比較的喫煙に寛容だった南ヨーロッパの国々から日本の自動車産業の生命線となるビッグマーケットの米国取材の機会を増やしたことが契機となった。

 発端は、カリフォルニア州発の外電でZEV(zero emission vehicle)=大気清浄法が施行されるという新聞のベタ記事。当時1990年初頭に政府の肝入りでCS(商業衛星)放送がスタートした頃合いに自動車のレギュラー番組に関わる機会を得て、それをベースにZEV法って何?を現地に取材する企画を立てた。

 最初はロサンゼルス(LA)で問題になっている大気汚染問題のイメージすら湧かない。私が中学高校時代を過ごした1960年代の川崎の経験があるので、さほど違和感を抱くことはなかったが、現地を取材してこれは複雑だと思った。

 まず第一に三方を山に囲まれ、西は太平洋というLAの地形的な要因がある。基本的に大気が滞留しやすく、午前中はスモッグで覆われがち。陸と海の温度差の関係で風が吹く午後になるまではカリフォルニアの青い空を拝むことが難しい。

 今ではそんなことはなくなったが、90年代のLAは、成田からの到着便がロサンゼルス国際空港(LAX)に降り立つ午前中は山の中腹の上までが薄黄色い雲に覆われることが多く、午後になるとパッと晴れるのが通例だった。

 ZEV法の衝撃は、当時カリフォルニア州で一定量以上のクルマを販売するメーカーは1998年まで販売台数の2%を排気ガスゼロのZEVにし、段階を追って2003年には10%まで高める。当時ZEVといえば鉛バッテリーのEVしかなく、短期間でとても商品性を高められるとは思えなかった。

 カリフォルニア州ZEV法の特殊性は、先述の排ガス由来のスモッグが滞留しやすい地形に加えて、一年を通して温暖で雨も少ない。ということはクルマが痛みにくく、ライフサイクルが他よりも長い。当時の最新モデルに比べるとエミッションレベルが10倍オーダーの旧くて大きいアメ車をはじめ、現役に留まる確率が高い。

 今もそうだが、当時のLAはクルマがないと日常品の買い物にも困る完全クルマ社会。クルマは死活に関わる問題で、非白人系の低所得者層は旧いクルマに乗らざるを得ない。まだガソリン価格がガロン(約3.8L)1ドルそこそこの時代。ドル/円の為替レートも95年6月の超円高以後は現在とほぼ同じ120円台に落ち着いていた。

 このLA取材の際、私は多分日本のメディアとしては初めてカリフォルニア州大気資源局(CARB)のトップとTVカメラを前にインタビュー取材したジャーナリストだと思うが、その中で確かダンロップという姓の局長はきっぱりとこう言いきった「それがEVだろうがガソリンだろうがハイブリッドだろうが何でもいい。このカリフォルニアの空がきれいになりさえすれば!」

 当時の技術レベルでも、低所得者層が乗る旧いクルマを最新モデルに置き換えられるなら即座にLAの青空は戻ってくるだろうと言われていた。しかし、強制的に旧車を取り上げても問題は解決しない。そもそも貧しいといっても米国籍を持つ市民であれば、強制力は発揮できない。そうかといって新しいクルマに乗り換えを促す財源もない。迂闊に召し上げれば、彼らも有権者。強行した政治家が次の選挙を勝ち抜く保証はない。

 つまりLAの大気汚染に始まるカリフォルニア州大気清浄法の問題は、地形や環境、政治、経済、社会(システム)、人種などが複雑に絡み合ったアメリカのこの地特有の複合汚染の様相を呈していた。

 ZEV法はその後紆余曲折があって、ここに来てようやく目鼻がついた。実に20年を要してやっとと言う感じ。もともと一地域の問題はいつの間にか1997年のCOP3京都会議で急浮上した温室効果ガスの問題とくっついて、いつの間にかCO2二酸化炭素が問題だというグローバルな広がりを持つに至った。

 20年前の記憶が印象的な出来事とともにこの頭の中に残るが、率直に言ってこの20年間は一体何だったのだろう。全世界の自動車保有台数は10億台規模に達したが、EVを初めとする次世代自動車の普及は1%にも満たない。

 温暖化に急いでブレーキを掛けないと30年後には壊滅的な事態が招来する。IPCCは最後通牒とも言える第5次調査評価報告を提出し、今年12月のCOP21(気候変動枠組み条約第21回締結国会議)は京都プロトコル(議定書)に代わる新たな具体的な対策を発表するはずだが、日本の一般社会を見るかぎり急激な変化を見越した緊張感に覆われている印象はない。

 もしかしたらすべてが質の悪いデマの類で、この20年間踊らされ続けたような苦い気分が残るように現実は何も変わらなくても済むのかもしれない。情報の送り手としては狼少年にならない範囲で時代の変化に対応する必要を喚起してきたつもりだが、見ないふりをした大勢に押し切られているような居心地の悪さを感じる。

 体力が落ち、変化する価値観に付いて行けなくなったのかもしれない。弱音を吐くつもりはないが、未来が過去より圧倒的に短い境遇には何より身体(からだ)が基本で頼りだと痛感する。ウォーキングを始めたのは本能的な直感かもしれないが、さほど優れた頭脳ではない自覚がカラダさえ何とかなればと見切ったのだろう。

 これから先のことはまったく見通せないが、身体さえ丈夫なら、しっかり自分の足で歩けさえすれば大概のことは克服できる(と思う)。クルマのドライビングには最低限歩く体力と感覚的な鮮度が必要だと思っている。

 老化による衰えはいたしかたないが、歩く体力/能力を失った身体を補う技術体系は必要であるにしても本来の目的からは外れる。自動車旅行をしてみれば分かることだが、クルマのドライビングにはウォーキングレベルの基礎的な体力や感覚が不可欠だ。それがないと楽しめない。何のためのクルマかを考える重要な視点ではないだろうか。

●15年間通い続けているからこそ見える、実はあまり進歩していない国際社会

  誇れるものが少ない人間だが、ふたつめの自信を持って言える習慣(?)が世界の主要国際モーターショー取材だ。もっとも古い国際モーターショー経験は1985年のIAAフランクフルトショーだが、基本的に乗って走ってリポートする試乗記で長い経験を積んできた走り屋。プレスカンファレンスに立ち会って、世界初公開の資料を受け取って、時に開発者やデザイナーやトップマネージメントに話を聞いて記事にまとめる。客観性が問われ、発信元情報の精度が求められる仕事は苦手だった。

 1980~90年代を通してプレスツアーで多くの海外経験を積む境遇を得、世紀末頃に米国取材に軸足を移す過程で、あることに気がついた。バブル崩壊後。日米自動車協議が激化する中で、為替の円高振れの基調もあって現地生産化に拍車が掛かった頃に、日本にいて日本目線だけでクルマを見ていたら日本メーカーの実像が見えにくくなる。

 北米を初めとする現地生産の仕向け地専用モデルの増加を目の当たりにして、これは各国各地の国際モーターショーを取材しながら広い目を持たないと日本の自動車産業の端くれとして役に立つことができない。

 今世紀初頭のNAIAS(北米国際自動車ショー通称デトロイトショー)は、まだ衰退の一途を辿っていた当時のローカルな雰囲気が残っていた。バブル崩壊後の混迷から日産、マツダ、三菱が相次いで外国人トップを招き入れ、国内よりも海外市場に意欲を燃やすことで活路を見出そうと有望な北米市場に注力し始める。

 NAIASが活気を帯びるのは、C.ゴーンの日産や現フォードCEOのM.フィールズが350ZやGT-R、RX-8などといったイメージリーダーを積極投入し、その勢いに釣られてすでに北米に確固たるシェアを築いていたトヨタとホンダも積極姿勢で臨み始めてから。

 NAIASのデトロイトは今世紀に入ってから15回連続の皆勤で、後にニューヨークNYIASとロサンゼルスオートショーもアニュアルイベントとして加わった。取材目的は自動車ショーだけではなく、その折々に興味が持てる試乗車をLAを中心に借り出して、クルマの評価とともにフリーウェイを初めとするインフラへの理解を深めることにも注意を払った。

 自動車ビジネスという視点では北米が最重要であるのは間違いないが、雑誌を中心とするメディアが注目し、情報としての面白さやエンターテインメントの視点から見るとヨーロッパのウェイトが大きい。とくに日本メーカーの最大のライバルとなるドイツは、技術的経験が長く深く世界をリードする立場にある。

 EUとなった欧州の中心的存在となっているドイツとフランスが隔年でフランクフルト(奇数年)とパリ(偶数年)で国際モーターショーを開催する。こちらも合わせて15回の皆勤で、もうひとつの中立国スイスで毎年開催のジュネーブショーも通い始めて干支の一巡りになる。

 2001年のIAAは9.11の同時多発テロの記憶と重なる。プレスデイ初日の午後、時差の関係で深夜だった日本とは違って昼下がりのエアポケットみたいなタイミングで、突如各ブースのマルチモニターの画面が切り替わって煙たなびくワールドトレードセンタービルの映像に切り替わった。

 あの時肌で感じた嫌な予感がその後現在に至るまで続いている中東情勢や東アジアの緊張として関連づけられる。あれから10余年が過ぎて、自動車を中心とする経済は拡大したように見えるが、その分摩擦や混乱も深まったような気がする。

 ジュネーブで印象に残るのは2007年。直前の2月にEU委員会が120g/kmのCO2排出規制法案を提出すると発表して、それまでの"サロン"の名に相応しい華やかさは一変。冷や水を浴びせられたような白けたムードは、その後2年ほど改まることがなかった。

 半年後のIAAフランクフルトショーはまさに異様だった。それまで「我々にはディーゼルがある」エコの切り札として現実的なディーゼルエンジンを前面に押し出し、トヨタのハイブリッド路線に対して露骨に冷やかな態度を表明していたのに、9月のフランクフルトメッセでは「我々もずっと前からハイブリッドや電動化技術に取り組んでいた」

 そのほとんどがハリボテのような模型レベルの展示に留まるジャーマンスリーのドタバタに、正直幻滅したのを覚えている。それからわずか2年でビジョン・エフィシェントダイナミクスを発表し、6年後にi8を市販化させたBMWをはじめとするドイツ自動車産業の底力には驚いたが、それらを商業ベースで真剣に考えているかというと相当疑わしい。

 EUのCO2規制はすでに120g/km(タイヤその他で+10gの実質130g/km)が実施段階に入っていて、2021年施行の95g/km規制へとテーマが移りつつある。このところVW、BMW、ダイムラーのジャーマンプレミアムグループはオールドイツ的な取り組みとしてPHEV導入に邁進している。

 今週はVWがゴルフGTE、BMWがX5xDrive40eを同日(9月8日)に発表。ドイツ勢のプラグインハイブリッド(PHV)への傾倒はここ数年のトレンドとして確認していたが、正確な判断は致しかねていた。取材能力不足を認めるしかないが、これまで何度も現地の国際モーターショーで見聞きしてきたことにやっと腑に落ちる答えを見出した。

 X5のPHVモデルの紹介で航続距離が85ℓタンクで830kmとあり、それでは10km/Lを切ってしまうではないかと質問したら、連続走行ではそういうことになるが途中充電しながら走れば1500kmまで伸びると不可解な説明。納車は12月の予定だが、すでにベースモデルで927万円の希望小売価格も明らかにした正式発表の場である。資料に目をやると、国交省の燃費等の審査値の記載はなし。これも質問したら、まだ認証が取れていないとお茶を濁された。

  納得しかねていろいろ調べてみると、ECE R101という欧州の燃費測定法に行き当たった。プラグインハイブリッド(PHV)の場合、計測したCO2排出量をFuel consumption reduction factor(燃料消費量削減係数)で割ることになっている。この係数は、25km+燃費計測車両のEV走行距離の合計を25kmで割るという簡単な計算式から求められる。

  先月末に発表されたメルセデスベンツSクラスのディーゼルハイブリッドS300h(2.2L直4ディーゼル+モーター)のCO2排出量が115g/kmにとどまるのに対し、3L V6ツインターボ+プラグインハイブリッドのS550 PLUG-IN HYBRID longのCO2排出量は69g/kmとなる。鹿児島~東京1540kmを無給油で走りきったS300hの実燃費をS550PHVが上回るとは考えにくいが、欧州の燃費測定法では立場は逆転する。

 欧州は、依然として日本車に対して10%の関税を課し、カンパニーカー制度という目に見えない障壁でジャーマンプレミアムが独占的なシェアを守る高収益市場からレクサスやインフィニティを締め出している。近い将来関税撤廃となったら欧州車にとって日本車が具体的な脅威となるところだが、穿った見方をすればこのPHV規定は事前の防衛策と見て取れなくもない。

●今年のIAAフランクフルトは波瀾がありそう。胸騒ぎがするんです

 時代はどの方向に進むのか。2008年9月のリーマンショックに始まる世界同時不況状態を一手に引き受けた中国。2007年に初めて上海国際自動車ショーを取材して以来、隔年で北京と分け合う両モーターショーをカバーしているが、毎年一千万台の桁で純増を続ける巨大市場は日本が戦後70年をかけて築き上げた果実をドッグイヤーの勢いで実らせつつある。さすがに日本が1990年に経験したバブル崩壊の危機が迫り、これからの舵取りに注目が集まっているが、中国市場の混乱が致命的となるのは当の中国より深く市場に入り込んだドイツやアメリカではないかと私は見ている。

 今年の上海ショーは、2007年以来慣れ親しんだ龍陽路の新国際展覧中心ではなく、虹橋エリアに新たに建設された国家会展中心(National Exhibition and Convention Center)で開催された。従来の民営コンベンションセンターではなく、北京政府と上海政府が共同出資で建設した巨大構造物。メッセ会場としては従来世界最大だったドイツ・ハノーバーメッセを上回る総床面積147万平方メートルの世界最大に躍り出る。

 何度か訪れた広州ショーの会場もそれまで東洋一の威容を誇っていたが、それを軽く上回る。空から見ると四つ葉のクローバーデザインは一見機能的なデザインに見えるが、あまりに巨大すぎて出展者も取材者も観客も皆一日で疲れ果ててしまう。箱モノで権威づけを図る傾向は北京の人民大会堂や紫禁城や各地に林立する巨大ビルディングからも分かるが、器の大きさばかりが際立ち、コンベンションセンターとしての機能や使い勝手はほとんど省みられていない。

 実を言うとIAAフランクフルトショーが行われるフランクフルトメッセも、ダイムラーAGグループのホール2、VWグループのホール3、BMWが4年前に新設したホール11など、その巨大さと広大な敷地の移動に辟易とさせられる難所でもあるのだが、全体を通してのクォリティの高さに救われている。

 毎年通うジュネーブのパレクスポ(PALEXPO)の好ましいサイズと華やいだ雰囲気は理想的で、一年で一つだけ見ることを許すというなら躊躇いなくここを選ぶ。まだ冬の気配が色濃く残る3月のスイスは年明けのデトロイトと並んで快適とは言い難いが、最適シーズンに開催されるフランクフルト/パリと比べても公平さと情報の質の高さと会場の空気感の演出に秀でたものがある。

 今週は日付変更線を越えて日曜日の配信となってしまったが、あと半日ほどでフランクフルトショー取材に飛ぶ。今回はハノイ経由のベトナム航空。8月の早い段階で7万円台の格安チケット(当然サーチャージ込み)を掘り出し、プレス登録を済ませた。せっかくだからと、現地でCIVICtypeR、マツダMX-5(ロードスター)、CX-3のガソリン(AWD)とディーゼル(FF)を試すことになっている。

 もう無理、経済的に続けられない……言い続けながら、ここまでやって来た。我ながらどうしてやり繰りできているのか不思議な気もするが、まず行くことを最優先するという意志ありき。紐付きにならずに通い続けることで、内外メーカーに遠慮なく疑問は疑問として公にもできる。

 日本でのドイツ車のPHV攻勢はまだ始まったばかりだが、これまでドイツメーカーのジャンケットツアーに何度も出掛けている面々からECEのR101規定があることを聞いたことがない。経済が煮詰まると保護主義的になるのはやむを得ないのかもしれないが、少なくとも事情を承知しているメディア/ジャーナリストであるのなら背景をきちんと報告してしかるべきだろう。

 招待先の顔色を見て、不利益になるような情報は流さない。そんなふざけた連中が今度のIAAにも多く出現するはずだが、21世紀もセカンドディケードの折返点。大きく時代が動く変化による緊張感を意識しながら、時代はどっちに進むのか。しっかり読みとって来ようと思っている。

●ホンダが難しいところにいることを実感する両極端

  今月は月初めにホンダS660を一泊二日で借用し、翌日から未試乗だったレジェンドを一週間傍に置いて久しぶりのホンダプレミアムセダンを味わった。S660は現在COTY向けイベントを北海道・鷹栖PGで行っている。そんな関係もあって、試乗時間は限られたが、NDロードスターの直接のライバルになり得る……発売前からの予想通り、クルマというより身体性に関わるモビリティツールとしてNDと同格の存在感があると確信した。

 軽自動車らしからぬスペースユーティリティは、エアボリュームの極大化にエネルギーを注ぐ主流のトールワゴンと違って、2座に絞ってダイナミクスに集中したパッケージングで構わない。コンパクトなスケールとはいえ、2人分のスペースでいいという割り切りがあれば3.4m、1.48mの全長全幅はけっして小さくはない。

  我が家のガレージに収めても、クルマというよりは存在感としてスクーターなどのライトモビリティに近い。今回は箱根まで足を伸ばし、往復のストロークとワインディングを楽しみながら雰囲気を掴むことに集中したが、間違いなく4輪の軽自動車なのだが6速MTを操りつつ走る気分はモーターサイクルの身体で動く感じに近い。

 歴代ロードスター(NA/NB/NC)を過度にリスペクトしすぎ、現実的にはディメンション的にもプロポーション的に異なり、ドライブトレインを初めとする技術体系の面でも画期的に異なるゾーンに踏み入れているのに冒険していないNDロードスターと比べると、そもそも軽自動車枠という制約で自らを縛った上で登録車と変わらぬクォリティを与えることで軽自動車でありながら別の乗り物感を演出したS660は侮れない。

 ホンダ最小の4輪モビリティの対極にあるレジェンド。その豊かな室内空間の演出については米国各地のモーターショーで確認済み。スペースユーティリティと前後席の居心地の良さでは高く評価できる。FFベースのスタイリングにプロポーション的な難易度が高いことを知った上で敢えて言えば、何年か前にボツになったFRベースで世に問うべきだろう。スポーツハイブリッドSH-AWDによる高度な制御体系よりも、素直に心に溶け込むスタイリングを走りで補強するというスタンスを理解しないとゴールは永遠に見えてこない。

 JC08モード燃費は16.8km/L。実燃費でどこまで伸びるか注目したが、11km/L台、頑張って12km/L。3.5L V6SOHCを心置きなく楽しむ走りでは文句なしに速く、官能性能面での満足も高い。それについての評価は悪くないが、驚きが足りない。もっとオートマチックに好燃費が手に入るとか、ストレートな魅力を強化しないと支持を得られそうにない。

  アキュラRLXとしてなら走りのインパクトが最重要になるかもしれないが、レジェンドでは食指を動かさせることから始める必要がある。このスケールの大型セダンが一般の関心を生むことはあるか。劇的な燃費、大きなボディに対するエクスキューズを取り払う買い求める理由を提示した上で、二の矢としての走りのパフォーマンスがバックアップするイメージ。

 お金持ちは 燃費なんか意識しない……なんてことを言わないで、燃費を語れる大型プレミアムサルーンのコンセプトで迫る。大きなセダンが好きなクルマ好きは潜在的に相当数いるはず。彼らの心に響くクルマ作りは、既成の価値観でがんじがらめのクルマにはない広がりをみせるに違いない。米国や欧州の価値観がグローバルに優れているとは限らない。今回レジェンドでフルタンクを使い切る長距離ドライブを試みたが、このクルマの上半分のハイパフォーマンスはほとんど使っていない。こういう使い方が現実的であるはず。机上で得られる高性能とは別の感覚に答える乗り味。これは自分でとことん走り込まないと見えてこない世界。それがホンダに一番欠けていることかもしれません。

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3 件のコメント:

  1. 伏木さんのことは自動車雑誌の記事では知っていました。今回、初めてこのブログを知って読みましたが、世界の自動車ショーを自ら回った経験からくる文章はとても楽しいです。ぜひ、自動車批評とは別にジャーナリストツーリズムの著書を出されたら良いのにと思いました。

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    1. 返信遅くなりました。感想ありがとうございます。面白いと思って頂けるのなら、考えてもいいかなと思います。読者あってのライターです。励みになるので、またいろいろ教えてください。

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  2. このコメントは投稿者によって削除されました。

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