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2015年9月27日日曜日

VWの蹉跌

VWは完全なるクロだった。Defeat Device(排ガス制御の無効化装置)の使用を認めたのは、事が公になる約一ヶ月前の8月21日。だが、それは1年以上にわたって否定を続けた果てのgive up。

そもそもはEC(欧州委員会)が欧州各社の主張するディーゼルエンジンの規制水準に懐疑の眼差しを向けたのが2013年。普及すれば改善するはずが、むしろ悪化の一途を辿る欧州大都市のNOx、PMによる大気汚染を踏まえてのものだったようだ。

EC規制当局が米国での実路走行データを求めているという要請を受けたCARB(カリフォルニア州大気資源局)が調査に乗り出し、依頼を受け実務に当たったウェストバージニア大の研究者が、車載コンピュータの診断データの中に異常な記録が残っているのを発見し、御法度のDefeat Device使用の事実を掴んだ。VWは頑なに否定を続けたが、調査にあたった研究員の執念が優った。

VWが捲土重来の北米市場でシェア拡大の本命として選んだのがクリーンディーゼルTDI。その力の入れようは、2008年のグリーンカーオブザイヤー(G-COTY)をジェッタ(ゴルフのセダン版)TDIで獲得。

LAオートショーのプレスデイ期間中に表彰されるのが恒例で、「VW、力入ってるな!」ディーゼル乗用車不毛の地と言われたカリフォルニア・ロサンゼルスでの受賞に新しい時代の息吹を感じた。

翌2009年は3代目プリウスがノミネート。GMシボレーのボルトは翌年だし、本命は固いと思っていたら、何と前年同様VWグループのAUDI A3 TDIが連破。さすがにこれはないだろう? 地元の同胞メディア関係者と眼を見合わせた。

僕は2005年頃から始まった欧州のディーゼルブームにずっと注目し、現地で国内外のディーゼルモデルを借りてブームの本質を掴んでいた。コモンレールディーゼルが本格普及し始めた2003年以降の現象で、2005年には欧州小型車市場の50%を占めるに至った。

その理由の第一は、エコでも経済性でもなく、スポーティであること。走らせて楽しいことがまずあって、しかも経済的で高速巡行時は回転数の低さから静かで快適。目に見えないエコは2の次と考えても良かった。

トヨタが環境に優しいエコユニットとして開発したDPNR(Diesel PM-NOX Reduction system)は、環境性能はユーロ6クリアする優れモノでしたが、燃料を噴いて排ガス浄化を図るため燃費が厳しく、件のVWや尿素SCRを選んだBMW、メルセデスベンツ勢の前に撤退の憂き目を見ています。

アベンシスを現地で試しましたが、アコードの2.2Lやレガ
シィの2Lボクサーとの差にがっかりしたことを覚えてます。でも、CO2以外の環境性能だけで問えば屈指の存在です。今にして思えば不運だったのかもしれません。

トヨタ・ホンダの日本勢に大差をつけられていた北米市場で失地挽回を目指すあまり、CARBを欺いてまでもユーザーメリットのある燃費を優先した。アメリカで成功すれば、米国の背中を見てトレンドが形作られる中国でも期待ができる。ドイツ本国の3倍以上を売り上げる中国市場戦略の面からもTDIは期待の星だったに違いありません。

実は欧州と中国がVWにとっての主力市場で、グループで1000万台とはいっても、日本メーカーほどグローバルな展開を実現していない。エコがトレンドのシェール革命以前はハイブリッドに対抗するにはTDI以外に手持ちがない。その焦りが北米での半ば強引に無理筋を通そうとした理由でしょう。

少し引いて批評の眼を持っていれば、まず疑うところから入るはず。メーカーの広報戦略の片棒を担いで報道する姿勢を忘れてしまうと、最後は世のクルマ好きをがっかりさせることになる。いろいろ語っている同業には、まずここからやり直さないと距離が開くばかりだと言いたいです。

まぐまぐ!メルマガ『クルマの心』でさらに深く掘り下げるつもりなので、是非ご講読を検討して下さい。http://www.mag2.com/m/0001538851.html

2015年9月24日木曜日

VWの一件、今僕が自分の言葉で語れること。

後出しジャンケンのようで気が引けるのだが、思い出されるのは2008、2009年のLA国際自動車ショー開催時に行われるグリーンカーオブイヤー(G-COTY)である。

前年の2007は、時のアーノルド・シュワルツェネッガー カリフォルニア州知事列席の下表彰式が行われ、いかにものシボレー・タホ ハイブリッドが栄冠に輝いた。

その翌年は、VWが捲土重来を賭ける勢いでTDIを猛プッシュし、ゴルフセダンとも言うべきジェッタTDIがG-COTY。当時ディーゼル乗用車不毛の地と言われた米国の自動車州で、V Wの本気を感じ取ったことを覚えている。

2008年と言えば、前年の2月にEU委員会が120g/kmのCO2排出規制法案を突如提出し、欧州の自動車産業の空気を一変させた翌年。それまで「我々にはディーゼルがある」とハイブリッドを初めとする電動化技術に消極的だったドイツメーカーがことの重大さを悟り、IAAフランクフルトショー2007に雨後の筍の如くハイブリッドやEVの技術展示を行った。

現在でもVWの米国におけるシェアは6%(約60万台)に留まり、桁が一つ違うトヨタ/ホンダとは大差の開きがあるが、当時は30年以上前のラビット(ゴルフ)による進出の失敗の影響が残り゛さらにシェアは小さかった。

そこでテコ入れ策としてTDIでエコイメージを訴求して、グリーンカーに注目が集まるカリフォルニア州でイメージ挽回を図った。ヴィンターコルン体制2年目、振り返ると驚異的と評価される躍進が始まった頃である。

2009年はトヨタの秘蔵っ子であり、アメリカで成功を収めていた元祖ハイブリッドプリウスの3代目デビューの年。G-COTYの大本命と目されていたが、蓋を開けると2年連続となるVWグループのAUDI A3 TDIが栄誉を手に入れた。

ディーゼルに関心が薄いはずのカリフォルニアで、プリウスを退けての連続受賞にはさすがに違和感を覚えたが、COTYに企業努力はつきもの。洋の東西を問わず、人が決めるプライズとはそういうものだろう。

僕はCOTYを否定する者ではなく、それらを含めて人間が選ぶ祭事に似たイベントであり、そこにこそヒューマンな面白みがあると考えている。

これが厳格さを求められる品評会や技術コンテストとなれば話は別で、採点評価には確たる理由が必要だ。それはZEV法が定める排ガス規制で求められる技術的ファクトに対する要求と何ら変わるところはない。

COTY(年グルマ選び)のようなプライズに極端な厳格さを求めることには違和感を覚える一方で、法が定める規制については情実の入り込む余地は認められない。

明らかに不正となるDfeat deviceを使用していた時点で、VWは完全にアウトであり、それは一部の担当者レベルの話ではなく技術系のマネージメントが不承知だったとは考えにくい。

今回がそうだったように、しかるべき方法で調べれば露顕するファクトの話。1100万台が該当するという事実からも組織的に行われた不正とみるのが妥当だろう。

それが明らかになったからこその事件であり、違反の事実に擁護の余地はない。功を焦ったような急成長には必ず綻びが生じるものだ。

1000万台という世界生産規模は鬼門。かつてGMはその数字を得て世界一を印象づけた後に破綻に追い込まれたし、トヨタもサブプライムローン/リーマンショックによる世界恐慌状況という外部要因に始まったとはいえ急成長の結果として創業以来の危機を迎えた。

同様な視点から、ブランドを買い漁るようにしながら急成長を遂げるVWもいずれ躓くとみていたが、思わぬタイミングと理由でその時が訪れた。

トヨタが抱えるリスクは今も変わらないと思うが、VWは技術誤用という内部要因による躓きだけにブランド毀損によるダメージは計り知れない。

問題露顕のタイミングがタイミングだけに様々な憶測が溢れそうだが、歴史的転換点になることは間違いなさそうだ。

2015年9月23日水曜日

物証:MAZDAはRE(ロータリーエンジン)スポーツを開発している。

IAAフランクフルトショー2015プレスデイの翌日、ニュルプルクリンク北コース(Nurburgling Nordschlehfe)に出掛けた。取材期間中借用していたCIVICtypeRを走らせようと。

今年はこれまでになく雨天続きで、何年か振りに走るニュルも期待薄かな……諦め半分で出掛けたら、雨が上がり「ラッキー!」。平日の北コースはIP(インダストリアルプール)といって内外の自動車メーカー各社が共同で占有することが多い。この日も一般走行は18時からの2時間。1周27ユーロて有料走行が可能となったのだが、IPが終盤に差しかかったところで非情の雨。


まあ、せっかくだからと走ったけれど、コースがうろ覚えな上に走行車両はワンサカの大盛況。typeRのリポートはまぐまぐ!のメルマガ『クルマの心』http://www.mag2.com/m/0001538851.htmlに書いたのでよかったら講読して下さい。

IPが終るまで名物と言われるギャラリーコーナーで見物。メルセデス、BMW、AUDI、VW、MINI、ポルシェに日本勢のLEXUS、MAZDA……。覆面のプロトタイプから登場間もないニューモデルまで、見ていて飽きないクルマが次から次へとやって来る。

そんな中で、「おっ!」となったのが、2台で編隊を組む赤いRX-8。リアウィンドーに『L(ラーナー)』の文字が見える研修訓練車両ということだが、何で今時RX-8?他でもない、REスポーツ開発のための人材育成と考えるのが自然だろう。

翌日フランクフルト郊外オバーウーゼルのMREで行われたワークショップで施設見学をする中何故か真紅のFD3SとグレーのRX-8が鎮座していて『?』となった。

構内は撮影禁止ということで画像は残っていないが、傍らにいる大男のヨアキム・クンツにこっそり聞くと「スポーツカーにとって音(サウンド)は大事でしょ?そのサンプリングをやってるんだ」彼はMREで製品評価を担当する試乗&調査グループのシニアマネージャー。言外に『REスポーツの開発?やってるよ』と表情で応えてくれた。

2017年はコスモスポーツから数えて50年のREの節目。SKYACTIV TECHNOLOGYの成功を背景にマツダのアイデンティティの象徴的存在ロータリーエンジンを華々しく復活させるというストーリーは、プレミアムを目指すブランド構築には欠かせない通過儀礼ともいえるだろう。



IAAフランクフルトショーから帰って来たら、何やらドイツがキナ臭くなってきた



AAフランクフルトショープレスデイの翌日(18日)の報道というタイミングに配慮を感じる。14日のVWグループナイトでは、BMWからヘッドハンティングされたヘルベルト・ディースが新たにVWブランドCEOとして初のプレゼンテーションを行った。
僕はこの手の人事に疎いのだが、翌15日IAA2015のオープニングを飾る朝一のプレスカンファレンスにBMWの新任ハラルド・クルーガー会長が登壇し、スピーチの途中で倒れてプレカンが中止(夕刻再開)という前代未聞の事態が生じた。

このクルーガー会長との権力闘争に破れ、弾き出される形でVWにポジションを得たのがディースCEOとのことらしいが、クルーガー新会長同様にこれからという時に難しい局面に立ち至ったことになる。

マルティン・ヴィンターコルンVW社長の進退も取り沙汰される事態に、大揺れは必至。BMWも指導体制に不透明感が漂い、ディーター・ツェッツェCEO率いるダイムラーAGのメルセデスベンツ/スマートにも一時の勢いが感じられなくなった。


報道が前日/前々日のIAAプレスデイの真っ最中だったら大騒ぎになったことは間違いない。

VW・BMW・MBのジャーマンスリーは、ECE R101規定というローカルルールともいうべきPHEV優遇の法制(25km+EV走行距離)÷25km=削減係数 を敷き、ダウンサイジングターボなどによって予めCO2排出量を下げた上でその係数で割った数値を公式な排出量とするEUの政策に乗って、政府業界挙げてのプラグインハイブリッド推進に乗り出した。

背景にハイブリッドやFCV(燃料電池車)技術で先行するトヨタやホンダの日本勢の存在があり、利益率の高い大型高級車が中心のドイツメーカーのサバイバルも併せて費用対効果の大きいPHEVやEVへの傾倒が国益に適うという判断があったとみていい。

レギュレーションを主導して優位を確保するのはF1などにも見られる傾向だが、裏を返せばそれだけ真剣な死活問題だという認識を持っていることに他ならない。

現実問題として世界最大の市場に成長した中国でのドイツメーカーのプレゼンスは20%を上回る中国メーカーに次ぐシェアを押さえ、メリケル首相も足繁く中国詣でを繰り返している。日本の自動車メディア/ジャーナリストは国内販売シェアで10%にも満たないドイツ車をほとんど盲目的に礼賛し、世界市場でトップシェアを握る日本メーカーを下に置く自虐的な立場を貫いている。

伝統的に巧みなドイツ一流のプロパガンダに染まって、批評の精神を元に批判的に物事を見る態度を忘れ、アウトバーンを初めとする世界的にはむしろガラパゴスといえる環境の成果物としての特異な高性能車を理想と崇める傾向にある。もちろん日本メーカーも批評の対象であり、内外に格差を設けてはならないが、明治以来の舶来崇拝にいつまでも留まる愚は双方のためにならないだろう。

肝腎な時に日頃の懇意に遠慮して発言が鈍るようではメディア/ジャーナリズムとしての存在を疑われる。報道のタイミングから推察して、VWの内部リークの可能性も否定できないだろうが、いろんな意味で考えるべき時が訪れたのは間違いないと思う。