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2012年4月18日水曜日

狂っている


新東名を走る機会を得た。開通前に取材する案内は届いていた。しかし、それはバス移動によってサービスエリア・パーキングエリアの商業施設の内覧と本線走行、料金所通過を経験するという、いかにも役人発想の無難と無責任を絵に描いたような内容。施設を見物するという発想自体が、自らが運転して移動する空間という道路の本質を欠いた、殿様商売であることに気がついていない。

出来上がった道路の上屋を運用し、そこでビジネスを展開する民間の株式会社になったということで、その施設内で何をしようと勝手だが、有料道路という構造上施設敷地内を排他的に独占できることをいいことに、ショッピングモールやアミューズメントパークのような集客目的の巨大設備を建設し、収益を上げることに邁進する。

曲がりなりにも世界の高速道路を自走する経験を持つが、高速道路本線上の付帯設備であるパーキング・サービスエリア(PA.SA)にこれほど大がかりな商業施設を備える国を知らない。

そもそも、PA.SAは、長距離、長時間にわたって高速道路を通行する際に必要となるクルマの燃料補給や整備、ドライバー/乗員の生理的欲求を満たすためのもの。そのクォリティは最大限追求されていいが、しかしそこに人が訪れる集客目的の施設を作る意味は何なのか。

日本の高速道路は、有料であることを前提に設計されているので、無料が原則の一般道路とは有機的に結びつけられていない。インターチェンジは整備新幹線や在来線特急のようにスピードと時間に対価が払われるように一定の距離で間引かれ、世界屈指の高額通行料を収受するための料金所は無闇に巨大化され豪華になっている。

ETC(自動料金収受システム)は、財政上の理由から世界的な趨勢とされている有料化の切り札として注目され、世界中で開発競争が繰り広げられた。2000年11月につくば市で開催されたスマートクルーズ21-DEMO2000が、日本人がETCを知る最初のきっかけだった。そこで初めて耳にしたITS(高度道路交通システム)とともに、将来世界的に数兆円規模の巨大市場が生まれる……情報情勢に詳しいトップメーカー広報マンの力説に従い、以後注目して取材することにしたのだが、その後12年の進展はまったくお話にならない。

まずETCは、高い通行料を前提にそれに見合う体裁を整える都合から無闇に豪華なETCゲートが各料金所に設置されている。こんなことに馬鹿げたコストを払う国はない。コスト削減がIT技術の最大メリット。路車間通信でピッとやれば終いであるはずなのだ。

路車間、車車間通信をシステム化し、将来的には事故のない自動運転を目指す。ITSをぶち上げた霞ヶ関官僚は懲りることなく既定方針に執着しているが、すでに勝負はついている。ITを中心とするハードウェア技術とそれを組み合わせたシステムということでは世界最先端のものがあるかもしれないが、べらぼうな通行料を前提にした有料高速道路網を背景にした仕組みを受け入れようとする国はどこにもない。

ITSが世に知らしめられたスマートクルーズ21-DEMO2000というイベント自体が、硬直した国家行政官僚機構の時代不適合、制度疲労を象徴するものだった。歴史的なイベントが行われたミレニアムの2000年は、21世紀の幕開けとともに行われることになった中央省庁再編の前年。デモ2000は、それまでの縄張りを明らかにするのが目的としか思えない不思議なものだった。

国土交通省として再編される前の建設省と運輸省が、筑波学園都市内にあるそれぞれの施設で個別にデモンストレーションを展開。その模様は縦割りを絵に描いたような互いに我関せずの省益優先。合併後の綱引きを前提にしたようなそれは不思議な光景だった。

ITSには当時の建設、運輸、通産、郵政に警察、環境を加えた各省庁が参画。それぞれが省益を視野に綱引きをするという縦割り行政の縮図は再編後も根深く残っている印象がある。そうこうしながら内輪でごそごそやっている内に、世界は一気に日本を置き去りにしてグローバル化に突き進んでしまった。残ったのは、官僚の天下り先としての民間道路会社であり、その数少ない利権の温床としてのPA.SAということになるのだろう。

その結果としてのガラパゴス。閉鎖空間ともいえる有料高速道路の施設内に、モビリティインフラとしての道路機能とは直接関係のない商業施設を設け、そこへの集客のためにキャンペーンを張る。ビジネスとしてはありだろうが、そもそもそれが道路会社の目的だろうか?

メディアの関わりも不思議だ。民放や新聞雑誌にとって貴重な広告主ということもあるのだろうが、こぞってNEOPASAと名付けられたショッピングモール状のサービスエリアを紹介した。情報番組やバラエティだけでなくニュース報道としても。

その宣伝効果は抜群で、4月14日の開通以来、各サービスエリア入り口では長時間にわたって流入渋滞が発生。そりゃそうだ。本来想定してはならない交通の流れに長時間滞在を前提とする飲み食い買い物の店を作っている。それが郊外のショッピングモールなら分かるが、道路と一体になったパーキングスペースに、である。

本来目的にはならないスペースに人心を誘導する。道路会社も道路会社なら、メディアもメディアだろう。それがいかに狂ったことかという疑いもなく渋滞の模様を放置している。繁盛ぶりを自慢していると思われても仕方がないだろう。なぜ、これはおかしいという意見が出てこないのだろう。

狂っているといえば、道路そのもののあり方もおかしいのだ。供用されることになった新東名総延長162㎞は、片側3車線、設計速度120㎞/hという高規格で作られ、平均勾配率は2%(旧東名は5%)。平坦でカーブの曲率も大きく真っ直ぐ開けた視界とともにとても走りやすい仕上がりとなっている。

これは同じ規格で作られた新名神についてもいえることだが、走った印象はドイツ・アウトバーンの最新路線と比べても一歩も引けをとらない。この道路が計画続行か凍結かで揺れた日本道路公団民営化論議の中でコスト削減論が優勢となり、2車線供用となってしまったが、用地確保やトンネル、橋梁等構造物の6車線分は確保されているという。

せっかく3車線で設計施工されたのに、妙な法的取り決めで不十分な運用となった。この臨機応変を欠く柔軟性のなさは、非効率よりも役人の面子が優先されるという点で日本の道路行政のネックと言わざるを得ない。

道路の規格としては140㎞/h走行を念頭に設計速度が検討されたというが、国内法規に140㎞/hの規格がなく、法律上の設計速度は道路構造令の第一種第一級120㎞/hとなっている。ただし、最高速度は道路交通法で定められている100㎞/hに留まる。


海から離れた山間部を走るが起伏は少なく平坦。出来立ての路面はフラットで、これまで経験したどの道路より乗り心地の良さを実感する。

今回は、LEXUSのニューモデルGS450hとフェイスリフトを受けたRXシリーズ(ハイブリッド含む)の試乗会の枠内という制約から、御殿場ICから新富士ICまでの区間しか試せていないが、ハイブリッドモデルを選んでの両車の試乗インプレッションを端的に延べれば、道路の性能の高さによっていよいよ現在のクルマ(日本車に限らず)の実力とその能力を消費することを拒む道路交通法の矛盾が際立った。

法定速度の権限を握る警察庁・公安委員会は100㎞/hの法定最高速度引き上げに応じる気はないようだ。世界一の技術力で生まれたクルマの価値を否定するかのような、旧態依然とした法規に留めようとする理由は何か? 自らの無謬性に執着して、国全体の活力を奪ってもなお権限を行使しようとする根拠は何か? 狂っている。こっちの目から見ると、そうとしか思えない。

世界中で繰り広げられている競争に勝つべく機能性納品質を高めた結果としてのクルマの価値を、半ば否定するような法体系。本来のサービスを追求するのではなく、ドライバーとクルマをひたすら儲けの対象としか考えない天下りの道路会社。それに媚を得るメディアとその影響で踊らされる庶民(?)。

たまたま開通直後の試乗会が当地であって(当然それを狙った主催者の企画だろうが)、そのコース設定に含まれたルートを見て来たまで。ニュースなどで前日の開通に殺到した光景を見て、PA.SAが観光地? こんなピンボケの日本人で大丈夫か!? 心底心配になった。

実を言うと、しばらくたって落ち着いてから新東名を走ってみようと考えていた。今回の試乗会の意図を察したのは動き出してから。午後一の時間帯でも駿河湾沼津SAの上下線はともに流入渋滞を起こしていた。わざわざ観光バスで訪れるツアーもあって大盛況? こんな狂った高速道路ほかのどの国にもありゃしない。

世界一高い通行料を払って、わざわざ混雑必死のロケーションに先を争うようにやって来る。その異常さを誰も指摘することがない。本質を考えることなく、メディアが流す情報に何も考えずに乗り、皆がやっているという理由だけで、正当化してしまう。

さすがに試乗時間帯の午後早い段階では渋滞の列を呆れながら眺めただけ。そんなものに並んで付き合うことは考えもしなかった。流入渋滞が見られなくなった夕刻近くに、Knowing is seeingということで覗いたら、平日の月曜というのに溢れんばかりの人また人である。観光バスもどっさり。

周辺地域の消費構造にゆがみを生じさせ、旧東名のPA.SAは閑古鳥が啼いたという。ここに書くことすらも宣伝の一翼を担うことになりそうだが、一事が万事の例えとなるようなこの狂った状況。書かずにはいられなかったというのが正直なところではある。



2週間後の黄金週間の混乱が目に浮かぶ。道路はもっと使い勝手の良い社会インフラであればそれでいい。

どうして、そうならないのか。深く考える必要があると思う。

3 件のコメント:

  1. そうだ
    僕もそう思うのだ!!

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  2. 政治の貧困
    官僚の腐敗、事なかれ主義
    それに便乗するマスコミ
    踊らされる国民、どうしようもない日本
    10年若ければ、首相になって日本を根本から改革
    石原さんにお願いしますか、もう少し若ければ!

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  3. 1960年生まれの私にとって、日本は常に成長し続けるドリームアイランドと思い込んできました。しかし、それがとんでもない幻想であったま事を感じ初めてはや20年。
    最近は日本の閉塞感に絶望しか感じられなくなっています。
    頭の良いエリート官僚は日本の現状を予測していて自分たちが困らないようにするためだけに懸命に天下り先を作っているとしか思えません。
    嘆くだけでなく何かしたいのですが何をすべきか、わかりません。

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